第14話 若い老婆

第14話 若い老婆


 スライムの氷はとっくに溶けきった。日は高く昇り、僕らは深い森を進む。大きい根を越え、川を越え、そして、だんだんと見えてきた木々がない開けた場所、そこにそれはあった。


 周りより一段上げてある、ペンションのような木の家だ。周りにはツタが這っていて少しおどろおどろしい。


「ばあちゃん!アランだ!開けてくれ!」


 アランがドアにぶら下がっている金属でノックすると、中からしわがれた女性の声が聞こえた。


「大人のドラゴンの骨は全部で何本だ?」


 すかさずアランが答える。


「206本。」

「入りな。」


 ドアからガチャンと音がした。アランはドアをゆっくりと開け、僕らを中へと促した。


「よく来たね、阿呆が。」


 白髪を団子にきっちりまとめ、身長は僕より低い。80歳くらいだろうか。杖をついて、青一色のワンピース、見た目だけは普通のおばあちゃんだが、彼女の放つオーラは『魔女』と呼ぶにふさわしい。その老婆はアランを挨拶代わりに阿呆と呼んだ。


「相変わらず、阿呆なことをやっているかね?」

「ああ、そこそこな。この前は通りすがりの異国人とドラゴンを倒したよ。」

「ヒッヒッヒッ。阿呆こそお前の生きる道だよ。」

「阿呆は恥だが役に立つ。おかげさまでドラゴン討伐最速記録更新だ。」

「いいねぇ。…つまり、」


 老年の魔女の目が、ジロリと僕の方向へと動いた。


「そいつがその異国人というわけだね。」

「ご名答。さすがばあちゃんだ。彼は『日本』という国からきた、アキヒロだ。」

「ふむ。見たことない服装をしているねぇ。」

「アキ、彼女はユバ・プリングル。この辺で最年長、56歳だ。」


 56歳!?てっきり80代だと…


「お若いんですね…」

「見え透いたお世辞はやめとくれ。わたしゃそういうのは嫌いだよ。」


 そういう意味で言ったのではないのだが、まぁいいか。


「アキ、失礼だぞ。ばあちゃんは年齢を誇りに思っているんだ。”56歳まで元気でいることはとても稀なこと”だ。」

「え、今なんて?」

「『人間五十年』。ばあちゃんはすごい。」


 『人間五十年』ってそういう意味だっけ?

 ここは戦国時代かよ。

 電気がないのはわかったけど、平均寿命まで低いのか。

 ここは今まで見たことない剣と魔法の世界だが、良いことばかりがあるわけではないようだ。それは寿命に関する単なる事実でしかないが、僕はまるで過去にタイムスリップしたような感覚になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る