第13話 湿布

第13話 湿布


『スライムが現れた!』


 本日、四匹目のスライム君だ!さて、君にはモルモットになってもらおう。


「本当にいいのか?」


 無論だ。


「どんとこい!」

「わかったよ。」


 そう言いながら、アランはニヤニヤ顔だ。あなたも好きねぇ。


「がっはっはっは!バカがいる!本物のバカだ!」


 ヴィーゴはすでに腹を抱えて笑っている。

 よし、そのままそこで見てるがいい。

 面白きことは良きことなり。


 僕はスライムに剣でツンとちょっかいを出した。

 一匹目のスライムと同じように、ドロドロの液体が足から銅を伝って顔まで来た。

 こいつらは僕たちが息をしないと死ぬことを知っているのだ。

 ぶくぶくぶくぶく…

 僕の見た目は宇宙飛行士がヘルメットだけ被ったように見えることだろう。


 アランがエオウィンに指示を出した。


「やってやれ。」

「…アランの頼みじゃなきゃこんなことやんないわ。」

「ありがとう。エオは俺の自慢の妹だよ。」

「ふんっ。バカな兄を持つと苦労するわ。」


 そう言ってから、エオウィンはさっきと同じ、美しい魔法を放つ。

 スライムがみるみるうちに冷たく固まって、その表面に水分が満遍なく行き渡った。


 よし。

 僕は凍ったスライムを頭から外して、僕の頭と顔の形になったそれを眺める。


「ここを…こうして…」


 自分の顔の形に、金型のようになったそれの口の辺りを短剣でザクザクと削る。


「できた!」


 スライムの湿布の完成だ。

 僕はそれをまた自分の頭にはめ込んだ。ちょっと息がしにくいが、口の辺りは空洞を空けてある。


「ふめたくてひもひひいぞ!(冷たくて気持ちいいぞ!)」

「何言ってっかわかんねーよ!」


 ヴィーゴはなおも腹を抱えて笑っている。


「バッカじゃないの…」


 エオウィンは呆れ顔だ。


「…変。」


 チトセは平常運転。

 アランは感心したように、スライムと僕をじっくりと近くで眺めた。


「なるほど、スライムの食べた薬草と凍ったスライムで、患部を冷やしながら治療するわけだな。これは結構効果が高いかも。」

「ほう!ふはいむのほほひはほうめいでまへもみはういよ!(そう!スライムの氷は透明で前も見やすいよ!)」

「いやあ、こんなことは誰も思いつかなかった。」

「もひかしておくってへんさい?(もしかして僕って天才?)」

「いや、スライムは毒草や毒キノコを食べてることもあるから。」


 速攻でスライムのヘルメットを脱いで捨てた。


「うっひゃっひゃっひゃ!!!」


 ヴィーゴは笑い転げている。


「大丈夫大丈夫。そいつは大丈夫。」


 アランがニヤニヤしながら話す。


「本当か?」

「せっかくだから溶けるまで使いなよ。」


 アランはモンスターに詳しいようだし、大丈夫か。うん、そうしよう。正直エオウィンにやられた顔が、まだ痛むんだ。

 僕はスライムを拾って再び頭にかぶった。


「あ〜、こんなのと一緒に歩きたくない〜!」

「元はと言えばエオの修行が厳しすぎるせいだろ。」

「む〜。」


 金髪の天使は顔を膨らませる。


 僕は氷の魔法と自然の妙薬の気持ちよさに浸りながら、森を歩いた。

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