第2話 炎龍
第2話 炎龍
ドラゴンは空想上の生き物である。それは巨大で、表面は鱗で覆われている。トカゲやヘビの形を模し、背中に羽を持っていることが多いが、その姿はそれを想像する人々の地域や文化によって様々だ。しばしば炎を吐いたり、人を食ったりもする。
それは炎龍だった。唸り声を上げている間、口からは炎が漏れているし、赤い鱗から炭が跳ねた時のようにバチバチと音がして、湯気を立たせている。
なぜ僕はこんなところにいるんだ。暗い路地裏だった。それが一瞬で太陽の下、一面の草原。そして、極め付けに炎の翼竜だ。
ただし、僕が暗い路地裏にいた証拠、残留物もあった。今まさに僕が立っているここはコンクリートだ。それはおよそこの草原に似つかわしくないもの。さっきの路地裏の地面が、自分を中心に円形に存在している。
そしてビルの壁の一部。それから、気を失っている銀髪の美少女と、足を失くした谷原だ。あの光の膜に持ってかれたのか!?
「うわあああああああ!畜生!俺の足!俺の足ぃ!」
自分の足を気にするあまり、(いや、それは仕方のないことだが。もし彼の立場だったら僕でもわめき散らすだろう。)彼はドラゴンに気づかない。巨大な肉食動物というのは、瀕死の動物が苦しそうに鳴き声をあげていたら、どうするのだろうか。そんなの決まっている。
まるで教育番組で見たことのあるような、ティラノサウルスの捕食シーンだった。鉤爪と顎で谷原の体を裂き、上を向いて嚙み砕き、咀嚼しながら重力で喉の奥に落とす。
食っている間に逃げなければ!しかし、隠れるところのない草原で一体どこに逃げればいいんだ?
頼む。その食事で腹いっぱいになってくれ。
どうか、僕と、銀髪の美少女が食べられませんように…
あ、そうか。僕が逃げれば彼女が食われるのか。
どこの誰だかわからないけど、僕を助けてくれた彼女。そうだ。彼女なら、何か知っているんじゃないか。
この絶望的な状況を脱する方法を!
さっきだって、助けてくれた。
僕がボスに殺されかけたときに助けてくれたのは彼女だ。
未だに銃弾が、あの遥か上空に撃たれた独特のキーンという高い音を発するはずの銃弾が、戻ってくる音がしない。こんなに開けた場所なのにだ。
僕は一応、あの銃弾から逃れることができたらしい。
僕はその謎の美少女に近づいて、頭を起こした。自分の肩を貸す形で、人間を食べるのに夢中なドラゴンから彼女を引きずりながら、離れる。
「おい!ここはどこだ!?君は誰で!?あのドラゴンはなんだ!?このキーホルダーはなんなんだ!?」
彼女にそう呼びかけても、悪夢を見ているように唸るだけで、一向に起きる気配がない。
僕は必死に彼女の肩を揺らす。
「おい!頼む起きてくれ!ドラゴンに食われるぞ!」
ドラゴンの方を見ると、もう谷原の残り半分を食べ終わったようで、次は動いている僕らに興味を抱いたようだ。鋭い眼光で僕らの様子をうかがっている。
終わった。死んだ。
今日は一体、何回死を覚悟すればいいんだ。
本日、2、3回目の死を覚悟したそのとき、
「戦って…」
彼女の声がした。僕は彼女がやっと目を覚ましたのかと思って顔を覗いたけれども、彼女は目をつむったままだ。
どうやら、悪夢の続きを見ていただけだったようだ。
「くそ、戦えって…そんな。」
「戦う」。そんなのはただの寝言だとわかっているけれども、その言葉を意識した瞬間に、手に持っていただけだったそれが、急に重みを帯びてきた。
自分が『ボス』の銃、現代の科学を結集した銃を持っていることを思い出したのだ。
あのドラゴンと戦うなんてこと、全く考えていなかった。
どうせ死ぬなら、少し足掻いてみたっていいじゃないか。
僕は自動追尾式拳銃「セックス・ピストルズ」をドラゴンに向かって構えて、そしてトリガーを引いた。
しかし、その現代の技術の粋を集めた高性能ピストルは無情にもおよそ僕の期待とはかけ離れた機械音声を発した。
『指紋認証不一致。この銃は所有者しか扱えません。』
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