15話 和気

「……と、想志の自己紹介がまだだったな。待たせてごめんな、よろしく」


静寂が辺りを包み込もうとする直前、藍梨は再び口を開いた。

先ほどまでの冷気を遮断し、話を横に座る男へと投げる。


男は溜め息混じりに返事をし、おもむろに立ち上がった。


黎の動揺は未だに抜けきっていないものの、男はその様子など意には介さない。

淀みなく自己紹介を始めていく。


「どうも、緑川想志でーす。天狗やってまーす。天狗のわりに顔が白すぎるなんて言われるけど、天狗なんてわりとそんなもんだったりするんで、そこんとこも含めてよしなにどうぞー」


……場に溶けぬ、気の抜けた発話であった。

黎はどうというリアクションも取れない。

ただ、場が凍ったように思えた。


だが、気付くと藍梨は拍手をしていて、理子もまた和やかな笑みを浮かべていた。

そして、想志の声が続く。


「言うて大丈夫だろ。どこの新人も、最初はそんなもんだ。心配すんな」


想志は表情を崩していない。

しかし、そこには何か温かい感情がこもっているように思えて、黎は顔を、だんだんと綻ばせたのであった。


藍梨が言う。


「まあ、最初は私に任せろ。なんとかできたかする。なんとかできなくても、それをお前の責任にすることはない。とりあえず、まずは慣れろ。話はそれからだったな」

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