10話 新人

「……おっと、こんな話ばかりしてるわけにはいかないんだ」


目を見開いて、眉を上げ、何かを思い出したように藍梨は話し始めた。


「まず、君の自己紹介だ。名前と、なんか言いたいことがあれば言ってくれ」


ずいぶんとぞんざいである。


唐突に話を振られた黎は一瞬たじろいだものの、語るべきであろう内容を思い浮かべ、言う。


「初めまして、私は竹田黎と申します。本日より、こちらの警視庁超常特殊捜査課にて勤務することとなりました。一所懸命、誠心誠意、国の治安を守るために勤めて参ります。よろしくお願いいたします」


一言一言に気をつけながら、聞き取りやすい口調になるよう心がけ、丁寧に述べていく。

また、よろしくと言うのに合わせて行った礼は、ほぼ理想形に近いと言える。


だが、藍梨は眉にしわを寄らせ、嫌悪感すら漂わせるほどに険悪な顔を作っていた。


「ほぼテンプレ通りの自己紹介ご苦労。私にはそのテンプレが個性を打ち消しているように感じられるから、なるべくやってほしくはなかったんだが、私も言い忘れてたし、仕方ないな」


声音もまた、先ほどと比べて著しく低い。

まずいかな……と、黎の心身に濁流が生じる。


……が、思わぬ助け船が現れた。


「今のは藍梨さんが悪いですよ。初出勤の自己紹介で堅苦しくなるな、なんて後から言われても、新人は全くわからないんですからね〜?たぶんほぼパワハラですよそれ」


理子であった。

こちらもまた、眉間にしわを寄せている。


……何か嫌な予感がしないでもないと、黎は感覚的に理解した。

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