8話 部署

「──着いたぞ。ここが私たちの職場だ。道は分かったか?」


質素な扉の前、藍梨は立ち止まって言う。

そこには『超常特殊捜査課』と書かれたプレートが掲げられていた。


しかし、古びて薄汚れており、道中に見たあらゆる部署のプレートほど格好の良いものではない。

警視庁内で、この部署は異質なのだと、誰が見てもすぐさま分かってしまうだろう。


一瞬ではあるが眉間を狭めた黎に気付いて、藍梨は言葉を足す。


「『超常特殊捜査課』は、警察に属していると言っても、警察とは言い切れない部分がある」


呆れ気味に、だが淡い笑みを浮かべて続ける。


「つまり、私たちは、警視庁上部の指示やマニュアルなどなく、部署単体で行動している。だから、警察から孤立した別の組織と言っても過言じゃないということだ」


なるほど……道理で、周りの部署と空間が断絶されているように思えるわけだ。


……が、黎の中でまた新たな疑問が芽を出す。


「なぜここだけ……?」


独立して活動する部署はここだけだと断ずる証拠はない。

だが、日本最大の警察組織である警視庁で、こんな特異な性質を持つ部署など、他にあるはずもない。


それは何故か……と、黎は問うた。


しかし……。


「さあな。それを記す書類はない。当時のことを知るのは課長だけだ。でも、何も教えてくれはしない」


先と変わらぬ微笑をていし、藍梨はただ『不明』とだけ応えた。


…………数秒の間を置き、「さて」と藍梨は素の水晶顔に戻す。

ドアノブに手を向けながら言う。


「外で話していても仕方がない。中を案内しよう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る