6話 出立

そんな中で、ようやく助けてくれたと言えようか。

茶楽が口を開いたのであった。


「藍梨……黎くんが困るようなネタに走るのはやめなさい。それに……間接的に危ない。怖い」


性別が逆であれば、軽くセクハラに抵触ていしょくするのではないか。


……しかし、さも当然というように、当の本人は動じることも、驚くこともない。

「慣れれば余裕でしょう」とだけ言うのであった。


茶楽は呆れたように眉をひそめる。


しかし、藍梨にも確からしいと思ったことがあったのだろう。

一呼吸置いて、まばたきを静かに行うと、黎に向かって話し始めた。


「だが、たしかに雑談しすぎるのはよくないな。私たちには、まだ重要な仕事が残ってる。とっとと案内を終わらせようか」


そうして、黎を手で招き、足早に歩き始めた。

少しずつ、廊下の奥に吸い込まれていく。


黎もまた、唐突に促されて、「待ってください」などと言いながら、藍梨の後を追った。


二人は、その後ろ姿を眺める茶楽に振り向くことはなく、もはや足音さえも聞こえないほどまで遠ざかっていった。


「やはり……息の合う二人なのかもしれないな…………」


茶楽はしばらく、二人をしみじみと眺めていた。


なぜであろうか。

その背中が、悲哀に埋もれながらも、ながい時を寄り添った姉弟きょうだいであると見え、頼もしく思えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る