『幻影の谷』~洞窟の秘密~
黒い蔦がからまった腕には黒い跡が残っている。
もとから傷があった腕だがその肩の傷から黒い煙がたまにでる。
そういう時はこの赤、緑、青、銀色の石が並ぶこの空間にいるほうが変な幻聴がも幻影も見ないですむので大半はユーリはそこで過ごしていた。
自分のせいだと思っているユーキスも一緒だ。
アイリーンは洞窟の中ならどこに行っても何も言わなかった。
父はたまに外に出ていくそんな時はヒディーがいる。
「よっ!チビだいじょうぶか?」
石のテーブルの上でウトウトしながら赤い石を眺めているユーリにヒディーが声をかけた。
「だいぶなおってはきたけど頭が重いよ。」
ユーリの肩の包帯をとる。
「闇の刃や牙の傷じゃないなこれわ。」
ヒディーの言葉に離れた所で本を読んでいたユーキスがビクッと顔をあげる。
「それは僕が悪さしたから出来た傷で……」
「けんかしたのか、気にするなそんなの男同士じゃ当たり前だ、俺がたまに行くシティーでは傷は勲章なんだぜ。」
ユーキスのそばにいき頭をなでる。
「チチ様はいけないことって言ってたよ。僕はユーリに意地悪しすぎるって。」
口をとんがらせるユーキスの肩をヒディーは抱く。
「ユーキスはユーリが上手に魔法が使えるようになってほしんだよな。怪我をさせるのは良くないことだ、でもな技とじゃなくて事故ならしかたないことなんじゃねえか?」
ヒディーの言葉にユーキスがキョトンと見上げる。
「事故て僕がユーリを怪我させたくないのに怪我をしちゃった時とか?」
「そうだな。今度は少し加減して技をかければだいじょうぶさ。あのユーリの傷から出てる煙はユーキスのせいじゃない、悪い気があそこから出ているんだ。あの傷があるからユーリは全身に呪縛をしないですんだと思えばお前はユーリの命を助けたんだ。へこむなよ、ユーリの傷の手当てしたら遊ぼうぜ、奥に広い空間があるんだ。」
「うん!」
目元をごすりながらユーキスはうなずく。
「広がってはいないからマシェの所に行く必要はなさそうだな。痛むか?」
「ちょっと痛いけどだいじょうぶ。ニイチャン、ユーリのペガサスの父上はごぶじかな?」
アルテミスが行方不明になったことはまだコーリィンとカルメンは知らないはずだ。
「無事に決まってるだろ。なんか嫌な噂でもソラからきいた?」
袋からだした緑の実をすりつぶしながらヒディーがきく。
「ソラは来てないよ。ユーリ変な夢ばっかみるんだ。真っ赤な空間にチチ様がいるんだそれでねユーリはいつも銀色の爪の変な男に殺されそうになるの、爪が迫る直前に父上がいつも飛び出てくるんだはじめは傷が出来ただけだったんだけど最後にみた夢で…………ズタズタにされちゃったんだ。」
涙が出てきたユーリを抱き寄せる。
「ちゃんと横になって寝てないから怖い夢みたんだな。薬つけた横になりな。そのほうが効き目もいいしな。」
気にならないわけではない、ユーリはベガの乳で育っている。
死んだんなら知らせがくるはずさ、アルテミス様はユーリに全てを預けるのがお望みなんだから。
マントをユーリにかけて頭を撫でながらヒディーは嫌な思いを取り消すように心の中でつぶやいた。
「クスリの樹液は万能薬だな。」
傷口からの煙もなくなり傷もアイリーンがかけた紋様の文字が浮かぶだけになっていた。
「ユーキスも安心したのかしら。息してないんじゃないかって心配になるぐらいグッスリ寝てるわ。」
ヒディーと魔術の決闘をして力を使ったから疲れたのもあるだろう、水浴びしてからユーキスは寝床にすぐに行って寝てしまった。
「食欲も出たみたいだな良かった。」
急にお腹がすいたユーリは夢中になって大きなパンをかじっている。
「そんなに急いで食べなくてもだいじょうぶよ。ほら喉につめた。」
アイリーンが笑いながらユーリに水を渡す。
「アマーイ!」
「これはね不通のお水じゃないのよ。そうだユーキスが目を覚ましたらこの洞窟の秘密を見せてあげましょう。ヒディーもビックリするわよ。」
アイリーンがいたずらっ子ぽくウィンクした。
岩が光っている。
「『生命の石』に似てるな。」
藍色にキラキラ光をまとう石を手にとりヒディーがつぶやく。
「あれはこの岩を結晶させたものよ。この空間の石達は昔はマーシャン全体をおおっていたと言われているの。そしてこの谷が『幻影の谷』て呼ばれるのはこの岩に群生する花のせいなのよ。人の苦しみ、そして魂になった人々が見えるの、その幻想に囚われた人々は命を奪われることがあるの。」
アイリーンは静かに語る。
「なんかさっきから変なもの見えるんだけど……」
「ただの幻よ。実在するものじゃないわ。」
アイリーンが言っているそばでユーリが何か捕まえてユーキスの鼻先につきだす。
「イタイ、ユーリもっとましな方法にしろ。鼻をマウにかじらせるな。」
静寂が見事に破られ。
ヒディーが笑い出す。
「仕返しされたなユーキス。ユーリよく捕まえたな。」
ハムスターに長い尻尾をつけたような動物は臆病ですばしっこいので捕まらないのだ。
「寝てたから簡単だったよ。」
はがいじめしようとしたユーキスをヒョイと交わす。
「また幻覚を見るかもだけど気にしちゃだめよ。て心配なさそうね。」
ユーキスの背中にユーリがマウを入れたのでユーキスがジタバタしている。
「コラッ、出してやれ。ユーキスの汗臭い臭いが濃厚じゃマウがかわいそうだ。」
殴りかかるユーキスをヒディーがヒョイと抱き上げマウを出してやる。
「イテッかみやがった。」
水が流れる音がした。
「これは?」
「ネオスの三目族のはじまりの方でこの洞窟の力の源なんです。」
澄んだ水の中で龍の骨が沈んでいる。
キラキラと光をはなつ空間は時が止まったようだった。
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