カルメンの怒り

「私の留守中に勝手なことをするなガーリィン、お前は龍王失格だ。」

ネオス王国の王ディウスの怒り声が響く。

王妃に肩を抱かれカルメンは方膝をついたガーリィン、『龍王』をにらんだ。

「私の息子をどこにやった?」

怒りが爆発したカルメンは王の前だということも忘れ怒りのオーラをはなちながらガーリィンに短剣つきつけた。

「カラー落ちつけ。」

驚いてたたずむ王妃の前に第一王子、コーリィンが飛び込んだ。

カルメンの怒りの刃はガーリィーリィンの肩をさいた。

王座から見ていた王は止めずにそれを見ていた。

「殺した………」

「まだ産まれてまもない幼子を殺したのか。お前はそんなんだから龍達に嫌われるんだ。父上、カラーはまだ地下からでたばかりです。下がらせてよいですか?」

「カラー、守人であるそなたがこんな悪魔のために手を汚しては行けません。行きましょう。」

王妃に支えられたカルメンは唇を噛み締める。

「私が守人の役目がなければそなたを呪ってやるとこだ。龍達が慕わぬのはそなたの心に濁りがあるからだ。死にに行く龍達は安らかな癒しを求める。幼子を殺すような悪魔に龍達は従わない。」

カルメンが息をはずませる。

ガーリィンは何も言わずただ頭を下げていた。

出産の疲労が抜けない体で地下に幽閉されたのでふらついている。

カルメンの体力があれば怒りの気でガーリィンはただではすまなかっただろう。


「『マーシャン』に帰らなければあのような者が清き王族から出るとは、闇の濁りが民を苦しめているのではないだろうか?」

「それはない。カラーが子を産んだことはマシェ様も知っておられる今は体を癒すんだ。」

カルメンが王宮で暮らしているときから一人になりたい時にくるリラの林にきたコーリィンが優しくカルメンを抱き締める。

「自由がきかぬ。それに乳も痛い。」

コーリィンの広い胸に顔うずめカルメンは泣いた。

守人が兄たちに受け継がれていればカルメンは姫になりこのコーリィンと一緒にいるはずだった。

城の五人の王子の中で一番頭がよく魔法剣士のコーリィンはカルメンの一番の理解者だ。

母を亡くし、闇の衝突に巻き込まれ、心を閉ざしたカルメンをただだまって見守っていた。

「なぜ?婚儀の儀式で呼ばれたのがガーリィンだったんだ。カミューやディウス、そなただったらわが子を殺めることもなかったろうに。」

そもそも古いしきたりなど守る必要もなかったのかも知れない………マーシャンに帰ったらあんな洞窟燃やしてしまおう。

コーリィンに染み付いた馬の臭いと香木の香りが心を冷静にしてくれる。

「カラー、ディウスは良しとしてもだな。カミュはやめたほうがいいもはや町で評判の暴れ王子だからな。」

コーリィンのセリフに思わず笑った。

昔から町や森やら走りまわっていた第四王子はあいかわらずのようだ。

「ゆっくり癒すんだ。息子のことは俺らに任せとけガーリィンは殺したと言っていたが俺は生きていると思う。カミュが『マホロボ』のクコ様が赤子をベガと育て郷に連れて来たって噂をきいたらしい。 」

カルメンはハッと顔をあげる。

もしかしたら、そんな希望がカルメンの胸に宿った。


王の住まう星、『メトロン』を潤す水源の湧く音をききながらカルメンはタメ息ついた。

マーシャンに戻りたいが体が言うことをきかない。

まだ乳飲み子だった。

「カラー、水の中にいすぎるとまた体調をくずすぞ。」

コーリィンの声で我にかえる水源の冷たさが戻ってきた。

こぼれそうな乳房にはちょうどいい………。

「カラー、いい知らせだよ。ヒディーさんが保護した赤坊を母上が引き取るそうだ。育てるかい?」

コーリィンが優しく肩を抱いてくれる。


「よくみるとこの子の目は茶色だし赤毛だユーリとは違う。私の息子はアマリリスの男子が受け継いできた金髪だった。」

乳を与えながらカルメンがいう。

「そうだな。」

カルメンの側にこうしていれるのは束の間だ。

コーリィンは赤坊を抱くカルメンを見つめていた。

俺ならこの人のためなら王家を捨てた。

いや遅くはない……後継はクイールがいる。

カルメンには優しい母だが我が子を守りたい母はコーリィンや兄弟に冷たい。

ガーリィンが帰ってきてゴタゴタあってもしらんふりだ。

守人のカルメンは時には世界の果てまで旅にでる。

俺はその間、マーシャンと子供達を守る。

それがいい、クイールの支えはディウスに任せればいい。

カルメンの肩をそっと引き寄せるコーリィンの胸の中には大きな決意が芽生えて行くのだった。



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