拾壱



「ぎ、ぎやあああああひひひぎぎ!!!!」



けたたましい絶叫。

鼓膜が吹き飛ぶんじゃないか。そう思わせるほどの大絶叫。


音の振動に空気は震え、僕の肌に大きな圧を与える。


鬼神は、胸の中央を貫いている自身の腕を引き抜く。

肉同士がこすれ、芋虫をつぶしたような、身の毛のよだつ気持ち悪い音が数回聞こえた後に、



「がっ……ぎ!!がああああああああああああああああっ!!!!」



絶叫は、断末魔の叫びに姿を変えた。


直立状態から前のめりに、そして無防備に倒れ込む奴。

それは大量の血を流し、そのまま固まった。



「あま、ね……」



僕は白夜さんの傷が落ち着いたのを確認したあと、倒れ込む奴に向かって這いつくばる。


痛みに、一瞬息が止まった。

しかし、前に進むのだけはやめない。

匍匐前進をするように、僕はただただ前に進んだ。


抉れた肩をかばいつつ、先ほどまで白夜さんに使っていた力を自身の治癒に集中させる。


少し和らぐ痛みにちょっと安堵しつつ、前に前に、ゆっくりと進んだ。



手を伸ばせば届く。

そんな距離にまで来たときに、僕は意識を失いかける。

しかし、



――――必ず助ける。



その思いだけが脳内にフラッシュする。


歯を食いしばれ。すべての力を絞り切れ。


まさに全身全霊で。

その思いをしっかりと刻み付け、僕は掌に自身の力を集中させた。


それはそれは大きな光。冷たく光る青い光。


鬼神に向かって伸ばされた僕の掌から、光が放出される。

その冷淡な光は、まるで洪水を思わせるほどの激しい流れで、奴の身体を覆い隠した。


奴の皮膚が徐々に浄化していく。


黒いもやが沸き立ち、静かに消える。

空気に吸い込まれるように、ゆったりと消える。


放たれる光の奔流は、やがてうねりを上げ、柱を形作った。


作られた柱は、まばゆいばかりの光を放ち。

そして、はじける。



何も聞こえなくなった。何も感じなくなった。


それは、機能停止。

全身が脱力し、ありとあらゆる体の機能が働くことを拒絶する。



不意に、一筋の光が差した。

それは淡く、青く光る月明りだ。



――――よかった。


その言葉だけが脳内に響き渡る。



ぼやける視界。

じんわりと暗転するその中に、僕は確かに見た。


月明りに照らされる、彼の寝顔を。

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