第一五話 清浄の代償
カグヤから戦闘ではなく調査だと聞かされたソウヤは少々拍子抜けした。
「なんで調査?」
「怪しいから調査です。それにソウヤさんが乗る〈ロボ〉の稼動テストも必要です」
「なるほどね。分かった。それなら協力するよ。いい加減、狭い部屋に居続けるのも飽きてきたし」
ソウヤは軽く背伸びをする。
この白い部屋に入れられて一週間――時間にして一六八時間が経過した。
部屋の外に出ることが出来ず、ストレス軽減として外の風景を壁面に投影しているが出られないという現状に変化はなかった。
理由は、ソウヤを保護するため。
カグヤから語られたその理由は〈ドーム〉という清浄すぎる密閉空間で生活してきたために、ソウヤの身体には自然界に存在する病原菌への免疫力が皆無なのだ。
もし仮に生身のまま外へと出れば感染、そして死亡する可能性が高かった。
無論、念には念を入れて予防接種を何本もソウヤが受けたのは記憶に新しい。
防護服を着れば解決する問題でもあるが、あいにくこの母艦にはソウヤのサイズにフィットする防護服はなかった。
「散々繰り返すことになりますが、コクピットにはしっかりと機密性が保たれ、空気循環システムと空気浄化フィルターが機能しています。コクピットハッチを空けて直に外の世界を見ようとしないでください。どのような病原菌に感染するかわかりません」
「心得ているよ。あと外の世界の動植物を〈ドーム〉に持ち帰るのは禁止ってのも」
「はい、その通りです。持ち帰った動植物が感染源として〈ドーム〉に疫病が蔓延すれば致命的です。かつて、コレラと呼ぶ伝染病はインド地方に蔓延る風土病でした。ですが航海技術の発達により人間を介して世界各地に広がり、当時の日本も被害を受けています」
「肝に銘じた。それじゃ送ってくれ」
ソウヤは黒いリクライニングシートに背中を預けた。
なんでも、この部屋から格納庫への直通便であり、外気に触れることなく移動ができる優れた移動システムだとか。
数時間で建造する技術力にソウヤは舌を巻いたのを覚えている。
曰く、<千年戦争>の遺失技術を応用したとカグヤは語っていた。
「はい。転送します」
移動のはずだがソウヤはただの言い間違いだと微笑ましく片付けた。
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