第二章:調停者

第一四話 EEドライブ

「どう思う?」

〈シートン〉のブリッジでサクラはカグヤに意見を求めていた。

 現在、キュウシュー地方よりオーサカ地方へ航行する中、出くわした光景。

 サンインサンヨー地方は中央に山脈が走る地形をしているが、その一角に戦闘跡を発見した。

 元々が生い茂る森林地帯なのだろうと、今現在では木一本どころか雑草すらない直径一〇キロメートル、深度一〇メートルのクレーターが穿たれていた。

『見るからにごく最近発生した戦闘跡のようですね……ですけど』

 カグヤの疑問はもっともだ。サクラとて同じ疑問を抱いていたほどだ。

「一体、どこの誰が、何と戦ったのか、よね」

〈地球のマザー〉が放った部隊。なら納得はできる。だが、誰がこのようなクレーターを作ったのか。その相手は誰か。それが最大の疑問だ。

「……〈シートン〉停止。上空で待機していて。直に降りて調査するわ」

『一〇〇%予測通りの解答です。周辺に敵影はありません』

 母艦が空中で停止のち停滞する感覚。

 地表は木々が生い茂っており、下手に着陸できない。

 折角回復した自然を破壊したくないと考えるのは戦争を起す者として偽善だと自覚していた。

「それと、ソウヤを〈ロボ〉に乗せて……マッチングは完了したんでしょう?」

「あ、はい。経験不足は否めませんが普通に動かすことは可能です」

 どんな理由であれ協力してくれるソウヤにサクラは胸の疼きを覚えた。

 嘘で利用している。騙している。だとしてもその咎を受ける覚悟はあった。

「……とりあえず〈ブランカ〉で出る。〈ロボ〉は動作テストを兼ねてミッションフォルムはなし。〈ブランカ〉にはバンシーフォルムを装備させて」

『了解しました』

 サクラはシートから立ち上がれば、格納庫へと向かった。


 EE(イーツー)ドライブ。

 DTの心臓部となる電力生成機関。

 千年戦争の発端となった〈人形条約〉により開発が始まり、以後、DTの動力部として定着する。

 この機関一つにより生み出される電力はおよそ7457kw。

 馬力換算にすれば一万となる。

 とある電気を生み出す生物の細胞を参考にナノマシンにてその生物の細胞をナノレベルで増幅再現した。

 ドライブが電力を生み出す仕組みは内部に装填された発電板が逐一発電しているからである。

 EEドライブの特徴として小型サイズであることがあげられる。

 高電圧に耐えきれる特殊合金製の容器に発電板を詰め込むことでEEドライブは完成する。

 容器は直径〇,六メートル、高さ〇,九メートルのドラム缶サイズ。重さは一〇〇キログラムとかつての動力炉と比較して軽い。

 取り付けや交換作業も比較的容易であり、EEドライブ対応DTに差し込む向きを違わず抜き差しするだけで良い。

 整備コストは低く、発電板が何らかの不備――破損、劣化、不具合などに陥った場合、EEドライブに備え付けられた修復用ナノマシンを作動するだけで終了。後はナノマシンがEEドライブに埋め込まれた命令に従い発電板を修復及び再生する。

 運用の安全性は高く、核動力でないため放射能による汚染を気にもしなくて良い利点がある。

 膨大な電力の恩恵を受けたことで高出力でありながら携行できるビーム兵器が誕生。また、DTの運動性を更に高めるため、ストリングスと呼ぶ電圧伸縮筋を搭載する。

 電気で伸び縮みする人工樹脂製の筋肉であり、膨大な電力の恩恵を受けて油圧系システムを凌駕するパワーを発揮する。

 ドライブ一つで連鎖的に革新的技術が発明され、実用化されていく。

 ただし、これらの技術すべてが戦争により生み出されたのは紛れもない事実であり、それから千年もの間、争いは止まらず続くのであった。

 なお、EEドライブのEEは、電気を意味するElectricityであるが、電気は電気でも正式名称は、Electrophourus electricus Drive。

 二つのEをとってEEドライブと命名された。

 日本語で表記するならば、電気ウナギのドライブである。


「電気ウナギ?」

 確か、日本列島では八月の暑い日にウナギを食す文化があったと習った。

 当然、ウナギにも種類があるため、日本列島で主に食されたのはニホンウナギであって電気ウナギではない。

 どのウナギも当に絶滅した種であり、データだけは残されているため、検索のち閲覧した。


 学名<Electrophours electricus>

 南アメリカ大陸の一部の水域にしか棲息しない、その地の頂点捕食者。

 毒蜘のように毒を持たず、蜂のように針を持たない。

 ただあるのは体内に持つ発電板なる電気を生み出す細胞群。

 この細胞群を活用することで電場、つまりはソナーにて濁った水中でも獲物を見つけだし、感電による麻痺で補食する。

 その発電板にて生み出される電力は六〇〇V。人間など軽々と気絶させられるレベルの電圧である。強力である一方、放電時間は千分の一秒と短い。電気ウナギにとっては獲物を捕まえるには充分すぎる時間であり、水中である以上、逃れられる獲物はいない。

 なお電気ウナギは食せるが、放電の危険性もあって現地住民のほとんどが食する者はいない。

 日本という極東の島国において、バラエティ番組内で電気ウナギを捕獲し、調理にて食したそうだが、土用の丑の日で食すウナギと変わらなかったという。ただ、身よりも脂肪が多かったそうだ。

 実は電気ウナギ、自身の出す電気に感電していたりする。感電にて麻痺しない理由は体内にある脂肪であり、絶縁体の役目を果たしていた。

「……ふむ」

 興味本位で閲覧してみたが、食せないことに変わりはなかった。

「ソウヤさん、少しお時間よろしいでしょうか」

 カグヤの呼び声にソウヤは自主学習を中断した。

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