第二話 ロボ、発進する!

 Dorooper(ドルーパー)。

 かつては血の流れ出ない戦争を行うために無人機として開発された全高一〇メートルの機械人形兵。

 人形条約と呼ばれる、人間の代わりである以上、人間の形をしていなければならない、という戦争の都合によって生み出された。

 元は人形兵士を意味するDoll Trooperの名を持っていたが時代の経過によりDTの略称を継承したまま、いつしかドルーパーと呼ばれるようになる。

 一Gの重力のある地上で二足歩行がどれだけアンバランスであろうと、人間の代わりに戦争を行うからこそ人型に定められた。

 数多の戦地でDT同士が交戦後、破壊される。運用データを元に新たなDTが製造され、戦地へと赴く。

 幾度となく繰り返され、戦闘と時代を経て改良されていった。

 そしてそれがサクラの力となった。

「EE(イーツー)ドライブ点火。火器管制システムロック解除」

 コクピットシートに座るサクラは網膜投影された計器に目を走らせながらシステムを立ち上げていく。

 高度に改良された操縦システムにより操縦桿やペダルを踏む操作は必要としない。

 有人仕様のコクピットに設けられたマンマシーンインターフェイスは脳波接続ヘルメットと接続することで直感的でありながら柔軟な操縦を可能とした。

 脳波で操縦する、がこのDTに搭載された特殊システムであり、このような機械的ではない操作システムが搭載された背景には、操作性の向上よりもシステムハッキングを避ける意味合いが濃かった。

「バックパックはテンソを選択」

『異議あり。テンソは確かに多戦闘で有利ですが、現状ではヒエンを推薦します』

「異議の異議ありよ。確かにヒエンなら高機動だけど今回は地球の重力も考えないといけない。場合によっては機体丸ごと大気圏に突っ込む可能性も考える必要があるわ。テンソの耐久性なら大気圏突入に耐え切れる。OK?」

 相手からの反論はまたもやない。

 ケージより開放された機械人形が立ち上がり、全高一〇メートルある異様を露にする。壁面から伸びた作業用アームがコウモリの翼のようなパーツを機体背面に装着した。

『敵接近。接触まで二〇〇セコンド』

 討論をしている暇はないようだ。後部ハッチが開かれるのを確認。真っ暗な世界へとサクラは叫ぶ。

「〈ロボ〉発進する!」

 漆黒の真空世界に翼持つ人形は解き放たれた。

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