第11話「親友達の三角形①」
柚霧は深空の三番だった。
深空が口に出して言ったわけじゃなかったし、そもそも深空には二番も三番も選べることじゃない。
けど、そんな深空に柚霧達は究極選択な与えてしまっていた。
深空は何日も何日も悩んだ。
その結果、選ばれたのは柚霧ではなかった。
柚霧に不満はなかったと……言えば嘘になるが、それでも良かったと思っていた。
けど、そう思ったことに柚霧は後悔した。
だが、今では柚霧が深空にとって間違いなく二番であることには、柚霧は満足している。
「ゆずちゃん、どうかな?」
「可愛いよ深空……これでお兄さんも間違いなく悩殺……じゃなきゃお兄さんの目が腐ってる」
「えへへ、そうかな」
深空と柚霧は二人で買い物に着ていた。
今は店で柚霧が選んだ服を深空が試着をしている。
「じゃあこの服は買うとして……今度は深空がゆずちゃんの服選んであげるね」
「ワタシは……別に……」
「嫌かな?」
「そんなこと……ない。 選んで……欲しい」
「うん!」
自分が着る服には無頓着な柚霧だったが、深空が自分の為に選んだ服となれば、話は別だ。
「深空……この服は……ワタシには似合わない……」
「そうかな? とっても似合ってて可愛いと思うよ」
深空が選んだのは、白いフリルのついた丈の短めなピンクのワンピースだった。
自分の服に可愛さを重要視したことはないので、柚霧には違和感しかない。
ピンク色と言う目立つ可愛いらしい色の服を来たことはなかったし、制服以外では足を出すような服を着たことも無かった。
その為、柚霧は戸惑っている。
「こんな可愛いの……ワタシには無理……」
あまりに可愛い服すぎて、羞恥心から頬を赤く染めて、落ち着かない様子だ。
「そっか……。 なるべく、深空の髪の色に近いピンクを選んだのが、間違いだったのかな?」
「え……深空の……髪の色に……」
「うん、でもゆずちゃんが嫌なら、もっと別なの選んで――」
「……これがいい」
「え? 嫌だったんじゃないの?」
「気が変わった。 たまには、可愛い服もいい……」
「そっか……うん、ゆずちゃんもすごい可愛いよ」
深空が店員を呼ぶと、着たまま二着の服を深空一人で購入しようとする。
「買ってもらうなんて……悪い……。 自分で買う……」
「いつもの御礼だよ。 でもこんなことじゃ大した御礼にならないけど――ゆずちゃんにはほんとに感謝してるんだよ」
深空は柚霧の手をぎゅっと両手で握った。
――違う。 本当に感謝してるのはワタシの方……。
柚霧は深空の言葉に甘えて買ってもらうことにした。
その服装のまま帰ることにして、着て来た服を紙袋に入れてもらい、深空達は店を出る。
「次どうする……?」
「ゲーセン行きたいなー」
「この服だと……激しく動くのは無理かも……」
「じゃあ今日はアーケードゲームの制覇を――」
「あら? ユズにソラじゃありませんか」
「「っ!?」」
服屋を出て直ぐに、二人の背後から柚霧のことをユズ、深空のことをソラと呼ぶ、図々しい人間に、二人は心当たりがある。
「
振り返るとそこに立っていた紫髪の少女の名前を呼んだ。
「はい、鈴葉です」
彼女は笑顔で応える。
彼女の話し方は敬語で静かな物腰にも関わらず、どこか気が強くプライドが高そうな雰囲気を感じさせていた。
その間、深空は柚霧の後ろに隠れていた。
彼女が深空の二番であり、二人の親友だった少女だ。
「お二人ともお久しぶりですね」
「昨日もあった……学校で……」
「それもそうですね。 でもソラとはお久し振りです。 確かこの前もこのように出会って……」
「そんなこと……どうでもいい……」
「はい、確かにどうでもいいことでした。 それにしてもユズ、その服は……」
鈴葉は柚霧を足の先から頭の先までじーっと見る。
「何……?」
「その服、ソラの趣味ですね」
「だったら何……?」
「ユズには似合ってないです。 ユズにはもっとボーイッシュなタイプの服が似合います。 ユズもそう思いますよね?」
「そんなこと……ない……」
「ソラもいつまでもユズの後ろに隠れて黙っていないで、わたくしとお話しましょう」
何気無く二人に近づくと、柚霧の背後で震えている深空に触れようと、鈴葉は手を伸ばした。
「深空に触れるなっ!」
滅多に感情を表に出さない柚霧が大きな声で怒鳴ると、鈴葉の手をパシッと弾いた。
「痛いです」
弾かれた手を痛みを和らげようとさする。
「お話するくらい、いいじゃありませんか。 わたくし達親友じゃないですか」
三人は確かに親友だった。
けど、その関係は崩れた。
小学生の頃の深空は真面目に小学校に通っていた。
元々、人見知りではあったものの今ほど酷くはなく、一人で出掛けるこも普通に出来ていた。
けど、小学六年生の頃だった。
柚霧と鈴葉は異なる私立の中学に通うことになった。
試験はあったものの二人の学力なら、先ず落ちることはない。
それは深空も同様で、二人と一緒が良かった深空はどちらと一緒の中学に通うか選択するしかなかった。
散々悩んだ結果、選んだのは鈴葉と同じ中学だった。
でも、柚霧にとっても鈴葉のことは親友なので、多少の不満はあっても鈴葉ならと満足もしていた。
だが中学校の入学式――
――鈴葉は柚霧の中学に来ていた。
鈴葉は柚霧と同じ中学に入学していた。
入学試験は柚霧とは別な日に受けていて、その事を柚霧も深空も聞かされてなかった。
当然、一緒に入学式に出ると思っている深空は、いるはずのない鈴葉を探していた。
深空は携帯にもかけたが、鈴葉は携帯の電源を切っていた。
入学式が終わると真っ先に深空の携帯に掛けて、鈴葉がこっちにいることを伝えると、何故そんなことをしたのか、柚霧は問い質した。
『だって、少し邪魔だったんです。 だから、ちょっとだけ……ね』
と鈴葉は言った。
その間、深空と通話中のままにしていたことを、柚霧は後から後悔した。
――深空は鈴葉と一緒がいいからって、同じ中学を選んだんだのに、鈴葉は裏切ったんだ。
その日から柚霧は鈴葉を嫌悪するようになった。
学校で会ってもまともに会話することはなくなった。
そして、深空は中学校に行かなくなって引き籠るようになった。
人見知りな深空が誰一人知り合いがいない中学校に行くことは苦痛だったのだろう。
それだけなら、まだ深空一人でも頑張れただろう。
小学校の時に柚霧と鈴葉という親友を作り、そのきっかけに初めに話し掛けたのは深空なのだから……。
それよりも、鈴葉に裏切られたことが原因だった。
そのショックから深空の人見知りが酷くなり、今のように一人では外に出られないまでになった。
はじめは柚霧までにも一度は心を閉ざしてしまったが、毎日に通い詰めることでまた心は開かれ、二人の絆は前以上に深いものになった。
今では柚霧達の支えがあって、外にも出るようになって、明るい深空に戻っていた。
それでも悪化した人見知りは治らず、それが今の深空の対人恐怖症だった。
「あなたなんかと……もう親友じゃない……」
「むぅ……ユズは冷たいですね。 ショックです。」
ショックという割には、表情一つ変えていない。
「ソラも同じですか?」
「あぅ……あの……えーと……」
「えー? なんて言ってるんですか? ちゃんとはっきりと言って下さいよ」
深空も必死に言葉を出そうとしたが、結局黙ってしまった。
「深空……ほっといて行く」
「え? ちょっとまっ――」
鈴葉は二人に制止を呼び掛けるが、柚霧が深空の手を引っ張って走って行く。
「おい、貴様……何をしてるんだ?」
残された鈴葉の背後から、話し掛ける声がすると――《ドーン》というような何かぶつかるような音が街中に響いた。
自宅へ帰るまで深空が心配な柚霧は部屋まで送ろうと、屋敷の中までお邪魔していた。
部屋へ向かう廊下で、悠都と鉢合わせした。
さっきまで、誰かと通話中だったようで、悠都の右手にはスマホが握られている。
「ただいま……」
「失礼してます」
「おかえり。 柚霧ちゃんはいらっしゃい」
普段の深空なら悠都に煩いまでに話しかけるところだが、今はただ俯いているだけ。
「ここまででいいよ。 今日はゆずちゃんありがとね」
ふらふらとおぼつかない足取りで、直ぐ側の自分の部屋に、深空は入って行った。
「深空、相当落ち込んでいるみたいだな」
「……あの……お兄さん……実は……」
「大丈夫だ」
「後は……深空の一歩があれば、万事解決するはずだ。 こっからは俺らがすることだ」
「お兄さん……」
「そうそう、これは深空の為じゃなく、舞音の為だからな。 そこんとこ、勘違いしてもらっちゃ困る。 それに中学校に行って貰わないと、俺の一人でのニートタイムをなかなか過ごせないしな。 そんだけだからな!」
「男のツンデレ需要……あるかも……」
「ツンデレじゃねぇよ! それに需要もねぇよ!」
そういい残して、悠都は深空の部屋へとノックもせず、勢いよく扉を開けて中に入る。
「逆パターンだ!」
「お兄ちゃん!? え、なに? 逆ぱたーん?」
訳が分からない第一声で入って来た兄に、深空は困惑する。
「いつもはお前がデートに誘ってきたりしてるだろ? だが今回は俺がデートにお前を誘う。 だから逆パターンだ!」
「えぇぇ!? ……嬉しいけど……今は深空……そんな気分じゃなくて」
「おいおい、いつもそっちから言って来るくせに、ちょっと気分じゃないからって断るのかよ」
「そ、そんなことないけど……ほら、今からだと暗くなっちゃうし……」
「そんなら夜の公園でデートだ。 なんなら、朝までフィーバーだ!」
「ふ……ふふ……ふぃふぃフィーバァァァ!?!?」
「そうだ。 行くぞ!」
「わぁ!?」
有無を言わさず、深空の手を引いて、家を飛び出して外へと連れ出す。
兄と妹達の三角形 結架ネア @yuikanea
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