第9話「俺の義妹がこんなに可愛いわけがある」
次の日曜、夏祭りの賞品である舞音とのデートが実行されることなった。
そして、懲りずにまた悠都の案で待ち合わせをして、デートすることになった。
「待ったー?」
「…………」
舞音はデート前の人間の表情とはとても思えない、仏頂面をしていた。
「ほら、ここは恋人の定番の『私も今来たとこ~』でしょ」
「貴様は恋人にふさわしくない。 ……そうとも、万死に値する」
「もう照れてるんだから~」
「これが照れてるように見えているとは、貴様の目は腐り切ってるようだな。 いや、目ではなく、貴様の全て腐り切ってるのであったな」
「もう、そんな褒めないでよ」
「今の何処に褒めた要素があるのか、説明して欲しいものだ」
舞音は呆れていた。
「それじゃあ、行こうか」
悠都は舞音の手を握ろうとするがすっと避けられた。
「約束だから付き合ってやるが、以前のようにホテルに連れて行くようなら、このデートはその場で終わりにする」
「行かないって。 ほら、行こう」
悠都と舞音の二人っきりのデートが始まった。
そんな二人を影から見つめる者達がいた。
「うぅ……お兄ちゃんとのデート……ホントは深空がするはずだったのに……」
「ドンマイ」
深空と柚霧だった。
深空はデートの邪魔はしないと約束した。
つまり、二人の邪魔しないで後をつけるのは約束の範囲外と、屁理屈だろうが深空はそう解釈した。
「二人が動き出した」
「追わないと――でもダンボール準備してなかったけど、大丈夫だったかな?」
「大丈夫。 ワタシが深空を立派なスパイにする」
「うん、ゆずちゃん、頼りにしてるよ」
深空と柚霧のストーキング活動も始まった。
ついた場所はデートの定番の映画館だった。
「ここならいいだろ」
「むっ、悪くはないな」
まともなデート場所なことに舞音は逆に驚いていた。
「何を見るつもりだ?」
「デートで見るならホラーだろ」
「ホラーか……。 悪くはないな」
「じゃあホラーで決定」
――舞音が怖がって俺に抱きついて……。
「言っておくが『恐怖でつい貴様に抱きつく』ことなど、死の予告電話がかかってくるとしても、そのようなことにはならんからな」
「わ、わかってるって」
悠都の考えは舞音には読まれていた。
――なら俺が怖がったフリをして、どさくさに抱きつけばいいだけのこと!
例え、男としてみっともなくても、悠都にとって舞音に抱き着くことが優先だった。
「じゃあ行こう」
二人はホラー映画のチケットを購入すると、中に入って行った。
「うむ、貴様が選んだ映画にしては、なかなか悪くはないものだった」
「そ、そうだな」
本当に舞音は少しも怖がることはなかった。
なので、当然抱きつかれることもなかった。
更には、悠都が舞音に怖がって抱き着くことは出来なかった。
その原因は後ろの方でやたら絶叫してる客がいたことだった。
そこそこ怖いホラー映画ではあったが、そこまで怖い映画でもなく、その客のあまりにもオーバーな絶叫にタイミングが逃してしまっていた。
――でもまたまだ時間はある。 次だ次!
悠都は気分を切り替えた。
「もう直ぐ昼だし、食事に行かない?」
舞音も異論はないようで、悠都が先導して食事する店へと向かった。
「深空、大丈夫?」
「あれ……ゆず……ちゃん……? 深空どうしたの?」
「気を失ってた」
「うぅ……バイ◯ハザードとか零シリーズみたいに二次元なら平気なのに、三次元がこんなに怖いとは思わなかったよ」
深空と柚霧も悠都達よりも後ろ側の席で映画を見ていた。
だが深空はあまりの怖さで幾度も叫び声を上げて、物語の終盤には気絶していた。
「あ、お兄ちゃんは!?」
深空は周囲を見渡した。 映画が終わったばかりでまだ客は数人残っていたが、悠都達の姿はなかった。
「見失っちゃった……」
「発信器付けたからまだ追える」
柚霧は深空に携帯電話のような発信器の受信機を見せる。
映画の上映中に柚霧は暗闇に紛れて、こっそりと近づいて悠都の荷物に発信器をつけていた。
「流石、ゆずちゃん!」
「そんなことない……」
深空に褒められたことは、誰に褒められるよりも柚霧は嬉しかった。
「でも発信器なんてよくあったね?」
「深空をいつでも守れるように……発信器と盗聴器は常に持ち歩いてる……」
「深空を守るのに発信器と盗聴器必要なの?」
首を傾げなから深空は、当然の疑問を柚霧に投げかけた。
そんな質問に、びくっと体を震えると柚霧は黙り込んだ。
きょとんっとした表情で、深空も静かに柚霧の返答を待っている。
「…………そんなことより……発信器の受信範囲……あまり広くないから……早くお兄さん達を追わないと……」
「あ、そうだったね。 行こっ!」
深空は誤魔化されたことに気付かずに、発信器の示す先に向かった。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おかえり」
「ただいま~」
「…………」
悠都が昼食にと連れて来た店は、以前深空が悠都を連れて行った妹喫茶だった。
あれから、悠都は一人で週に何度も来店するようになり、すっかり常連さんになっていた。
舞音も一度来たことあったが、あの時はメイド服姿の深空に夢中で、他は目についてなかった。
「なんのつもりだ?」
「ここは妹喫茶だ。 メイド服で妹のような接客してくれるんだ」
「どんな店か聞いてるわけではない! 何故、義理の兄と来なければならんのだと聞いている!?」
「兄と認めてくれたね」
「ぐぬっ……失言だった」
喜ぶ悠都とは対象的に、つい余計なことを口に出してしまったと、舞音は心の底から後悔した。
店の出入口で言い争っていては悪いと、二人は妹店員に案内されて席に座った。
「とにかくだ。 何故このような店に私を連れて来た!?」
「舞音の
「よく理解は出来ないに――私に、妹力など存在せん! あるとしたら、
真面目に全力で舞音は答えていた。
「妹力がない私は、これで帰らせてもらう」
「まぁ、舞音待ってよ」
「なんだ、私は帰ると言って――」
「姉力ってことは、妹が好きってことだろ?」
「違うな、間違ってるぞ! 深空が好きっであって、妹が好きというわけでは――」
「カラフルシスターズ」
「っ!?」
悠都の一言で舞音の顔が真っ青になっていた。
「な、何故、それを……」
「見られたくないならディスクを、テーブルの上に置いてちゃダメだよ」
「貴様私の部屋に勝手に!!」
「何も盗ってないからさ」
「当たり前だ! このクズが恥を知れ!!」
「罵倒されるのは俺としては嬉しくはあるものの、まずは俺の話を聞けって」
「貴様の言葉など聞くに値しない!」
「ここは妹のように接してくれる……だから、店員を深空と思うようにすればどうた?」
「そんなことなんになるという?」
「深空が舞音をもっともっと慕ってくれた時の予行練習にもなるしさ。 そして、何よりもテンションが高まる! そうだろ!?」
「…………」
舞音は想像すると、顔からつい笑みが漏れていれた。 舞音は立ち上がろうとしていたが、座り直してメニューを開いた。
悠都は『してやったり』と言った顔をしていた。
「勘違いするな。 貴様のデートに付き合うと約束した以上、最低限守らねばならないから、付き合ってやるだけだ」
深空と柚霧は妹喫茶のバックヤードから、二人の様子を見ていた。
ここが深空の店ということを知らない二人は、まさかバックヤードに深空と柚霧がいるとは夢にも思わないだろう。
「うぅ……仲良さそうでいい感じだよ」
「そう?」
柚霧は仲良く会話してるようには、到底見えなかった。
「邪魔する?」
「でも深空はお兄ちゃんに邪魔しないって、約束しちゃったから……」
「邪魔しちゃ駄目なのは、深空であってワタシじゃない」
「そっか。 そうだよね。 でも邪魔って何するの?」
「ワタシにいい考えがある」
今さっき、悠都達の注文を取った妹定員に何を注文したものを聞いていた。
「オムライス二人分……これならちょうどいける」
「何が?」
「とにかく、ちょっと待ってて」
柚霧が何をしようとしてるのか分からない深空は、ただ彼女の行動をぼんやりと見ているしかなかった。
柚霧は悠都達のオムライスを運ぼうとした妹定員にケチャップを渡している。
「なんでケチャップ渡してたの?」
「ジョロキアが入ってる」
「ジョロキアって世界一辛い唐辛子の?」
「そう。 お姉さんのオムライスにだけ、そのケチャップを使うように頼んだ」
「大丈夫かな? 死んだりしないかな?」
「量は気絶するくらいに、調節したから大丈夫……だと思う」
「よかった。 ゆずちゃんが深空のせいで、犯罪者になっちゃったら嫌だもん」
深空は舞音でなく、柚霧の心配をしていた。
その心遣いが柚霧には、心底嬉しかった。
妹定員は悠都と舞音の前のテーブルにオムライスを並べた。
「お姉ちゃん、なんて書いてほしいの?」
妹定員は柚霧から渡されたケチャップを持っていた。
「貸して」
「え? ちょ、ちょっと!」
慌てる妹定員から悠都はケチャップを奪った。
「お兄ちゃんが書いてあげよう」
「ここは妹喫茶であろう。 貴様ではなく、この妹に書いてもらう」
「だったら、舞音が書いてくれよ。 それなら妹だしさ。 舞音がお兄ちゃんへ向けて愛の言葉をお願いします!」
悠都は強引に舞音にケチャップを渡すと、周りの目も気にせず土下座までしていた。
「ふむ……いいだろう。 私の貴様に対する思いの全てを書いてやろう」
あっさりと頷いた舞音はケチャップで、悠都のオムライスに文字を書いた。
「これが私が貴様に最も望むことだ」
綺麗な文字で『DEATH(デス)』と、悠都のオムライスにケチャップで書かれていた。
「おおー、つまり死ぬほど俺のことが好きってことだね」
「貴様の脳はどこまでおかしいんだ。 死ぬほど好きなのは深空であって、貴様のことは死ぬほど嫌いだ。 もっとも死ぬのは貴様だがな。 私は貴様などが原因で、死ぬ気はない」
「それじゃあ、早速頂きます」
「くっ……聞いてないだと……どこまでも、私を馬鹿にして」
文字の書かれた部分のオムライスをスプーンいっぱいに掬(すく)うと、口の中に勢いよく入れた。
「んっ!?!?」
瞬く間に悠都の顔は真っ赤になり、大量の汗を吹き出していた。
「うごぉぉぉぉぉ!!!!」
悠都は喉を両手で、おさえながら悶え苦しんでいた。
「遂に私の貴様への憎悪が、呪いの文字となったか」
舞音は悠都が苦しんでる理由を間違った解釈をして、一人で納得していた。
「感じる! 感じるぞぉぉぉぉぉ!! 俺の体か燃えるのようなこの感じ――まさしく愛だっ!!」
悠都もまたおかしな解釈をしていた。
そして、辛さにめげずに舞音の愛の力と思い込んで、顔から火が、出そうなほど真っ赤にさせながらオムライスを口の中に入れ続けていた。
悠都と同じケチャップは使いたくないという理由から、舞音はジョロキア入りのケチャップを口にする事なく済んだ。
裏では、兄を心配して駆け寄ろうとする深空を、柚霧が引き止めていた。
午後からも悠都にとっては至福の時間、舞音にとっては絶望の時間である。
二人は服屋や家電店などいくつもの店を回った。
特にランジェリーショップに入った時には大騒ぎだった。
悠都も何の躊躇(ためら)いもなく入って、舞音の下着を選ぼうとした。
もちろん、舞音は拒否したのだが、悠都もけして諦めず、殴られたり蹴られたりしてもめげることはなく、結局舞音が折れる結果となった。
自分の選んだ下着を舞音が受け取ったことに、悠都は満足していた。
その間も深空達は二人をつけていたが、ただ様子を窺(うかが)ってるだけだった。
しかし、途中に数人の不良に絡まれのたのだが、深空に手を出そうとして、静かに激怒した柚霧によって、不良達は瞬く間に地に伏せる結果となった。
そして、柚霧に『次は深空とワタシの前に現れたら、下の玉を容赦無く切り落とす』と、耳打ちされた不良達は蛇に睨まれたカエルの身をすくめていた。
その事は、深空は知らなかった。
そんなことがありながらも、一線を越えることなく、悠都と舞音のデートは終わった。
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