第7話「中二病でも恋がしたい?」

「あんた達何してるの?」


 鳴月が宇佐美家に入ると、3人が広間で集まって何かしていた。


「アルバム見つけたから、久しぶりにみんなで見てたんだ」


「へぇー、いつの頃の?」


「5年くらい前だな」


「ご、5年前ね……」


 過去を思い出して鳴月は苦笑い浮かべた。


「あの頃カッコ良かったよね。 小さかったけど、深空も覚えてるよ」


「うむ、夏なのにやたら長くて赤いマフラーで口元を隠すように身につけていたり、手の甲に十字架のシールつけたりと、何かと特殊な格好していたな」


「 …………ねぇ、ちょっと待って――それってあんた達のアルバムよね?」


 3人が同時に首を横に振る。


「鳴月のだ」


 鳴月は悠都が持っていたアルバムを奪い取った。

 アルバムには、鳴月の中学時代の写真が貼られていた。

 その写真の鳴月は、深空が言っていたような格好をしてポーズまでとっていた。


「なんで、こんなの残ってるのよおおお!」


 アルバムにあった写真を見て鳴月は卒倒しそうになった。


「処分してくれたって、言ってたじゃないの!」


「だって、思い出は大切に残すものだろ。 俺には捨てるなんて出来なかったんだ」


「思い出は残すものでも、黒歴史は捨てるものなのよっ!」


 鳴月にとって思い出したくない過去だった。


「そんな怒るなって、ちゃんと全部残してるから」


「だから、残さないで処分して……えっ……全部……?」


 鳴月は嫌な予感がした。

 悠都達に中を覗いたこもなかった部屋に鳴月は案内された。

 部屋の床には魔法陣のカーペットが敷かれており、剣や槍などの数々の武器のレプリカや服などが部屋には飾れていた。

 そのどれもが鳴月のもので、昔にこの家の鳴月の部屋に置いていたはずのだった。


 それを鳴月が『処分する』と言うので、鳴月には『処分した』と嘘をついて悠都達が別な部屋に移動させていた。

 鳴月はその部屋を見渡して、顔を真っ青にしながら、わなわなと小刻みに体を震わせていた。


「これは自分で処分したはずなのに……」


 鳴月は紋章が刻まれた盾を手に持った。


「俺がゴミ捨て場から回収した」


 悠都は自慢げにドヤ顔をする。


「これはあたしがビリビリに破いたのに……」


 ファイルに挟まれた紙の束をパラパラとめくって中身を確認する。


「私が修復して」


「深空がデータ化して印刷したよ」


 舞音と深空が誇らしげ胸を張る。


「あんた達なんでこんなに力合わせてるのよ!」


「俺たちは……」


「「「――鳴月の中二病に関しては、一致団結することにしてるんだ」」」


 三人が事前に合わせたかのように声を揃えて言う。


「こいつらうぜー!! なんの意味があるのよ! いじめなの!? いじめね! イジメカッコ悪いっ! 最低!」


「落ち着いてくれ、鳴月さん。  誰もいじめの為にやったんじゃない」


「じゃあ何よ!?」


「よく恥ずかしげもなく、あのようなことが出来ると、昔から今でも尊敬していてな」


「今は恥ずかしいから捨てたかったのよ!」


「カッコいいから勿体ないなーっと思ったから」


「深空ちゃんも1年もしたらあたしの気持ち分かるわよ!」


「鳴月をいじるネタに、これほどもってこいの物はなかったからな」


「悠都のは間違いなくいじめじゃないのよ!」


「確かさ。 鳴月がよく言ってた呪文とかもあったよな」


「そ、そんなのないわよ……」


 悠都の質問に対して、鳴月は目を泳がせいていた。


「深空覚えてるよ。『天光満つるところに我はあり、黄泉の門開くところに汝あり、出でよ神の雷――インディグネイション』だよね?」


「その呪文違うわよ! 別なのだから」


「それならば……『黄昏よりも昏きもの 血の流れより紅きもの 時の流れに埋もれし 偉大なる汝の名において 我ここに 闇に誓わん 我等が前に立ち塞がりし すべての愚かなるものに 我と汝が力もて 等しく滅びを与えんことを! ドラグスレイブ!』だったはずだ」


「それも違う呪文だって! それに長いわよ!」


「リリカル・マジカル」


「それ魔法少女のよ! そのジョ〇ョ立ちやめなさい。 腹立つ」


 深空と舞音と悠都の交互に言う呪文に、耐え切れずに反論していた。


「ああぁもう! 違うわよ! 違う!」


「はい、鳴月お姉ちゃん」


「ありがとう」


 深空から赤いガラス玉のついた杖と聖職者が着るような白いローブを鳴月は受けとった。

 白いローブを今着ている服の上から着ると、目を瞑って黙って精神統一していた。


「善も悪も全て滅する 聖と邪の狭間の極光 セイレントジャッチメント!!」


 鳴月は力強い本気の声とポーズまでつけて呪文を唱えていた。


「…………あ」


 自分が勢いでやってしまたことに、気づいた鳴月の顔がみるみるうちに顔を真っ赤にした。


「ち、ちがっーー違うの!」


「何が違うんだよ」


「うー」


 唸るだけで鳴月は言い返せなかった。


「てか、俺らは知ってるんだから気にすることないだろうに」


「うっさい。 もういいでしょ!」


「面白かったし、やめる必要もなかっだろ」


「面白いとか言ってる時点で、馬鹿にしてるじゃない!」


 鳴月は高校に入る直前に中二病を卒業した。

 成長したのが理由だが、きっかけは悠都のことを本気で意識しはじめたのが大きなきっかけだった。

 今までの自分の行動を見つめ直して、悠都には色々と問題があるので自分がしっかりしないと思い卒業したのだった。

 そのことを当事者である悠都は知ることはなかった。


「そんじゃ応募しといてくれ」


「はーい」


「ちょっと待って。 編集って何!?  応募って何!?」


「中二病オブザイヤーに応募する動画のことだ。 その為、今の録画して深空に編集してもらってたんだ」


「中二病……オブザイヤー……?」


 鳴月には聞いたことのない単語だったが、おおよそ見当はついていた。


「名前通りなんだか、どれだけ中二病か競うんだ。 部屋と一言の動画を投稿して応募になるんだ」


「ホントは面白そうだったから深空が応募したかったんだけど、応募資格は18歳以上なんだ」


「それに深空じゃ役不足で入賞出来ないだろろ。 鳴月なら魂の入った中二病上級者だから問題ないしな」


「問題ありまくりよ! それに誰が中二病上級者よ!」


「コスプレと思って気軽にさ」


「コスプレだってあたしには恥ずかしいのよ! てか、応募する必要がまずないじゃないのよ!」


「それは…………入賞商品が欲しいんだよぉぉぉぉぉ!」


「完全なあんたの我欲に、なんで、あたしが犠牲にならなきゃいけないのよ!」


「まぁそこは気にせずに――ということで深空投稿よろしく」


「はいはい」


「やめてぇぇぇ!」


 止める鳴月を無視して、鳴月の中二病全開の動画が全国に晒(さら)されることになった。

 けど、中二病オブザイヤーそのものがマイナーだった為、多くの人間に見られることはなかった。

 でも結局、入賞することまでななかった。

 だが動画を視聴した人達からは高評価を受けていた。

 ただ鳴月にとってそんなことはどうでもよくて、精神ダメージを負っていた。


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