第3話「トライアングル・デート」
今日は午前中から悠都、舞音、深空、鳴月の四人で街で買い物の予定だ。
宇佐美家三人は屋敷から一緒に行けば良かったのだが、悠都の提案で待ち合わせをすることになった。
他の二人が反対しそうなものだが、不思議と二人ともすんなりと悠都の提案は受け入れた。
悠都も何故こんな面倒なことをしたかと言うと、理由があった。
舞音に前日の夜に、街合わせの場所が駅前から広場に変更になったと、嘘のメールをした。
それで広場の噴水前に来た舞音と二人っきりで買い物――つまり、デートをするというのが悠都の計画だ。
「ふふふ……デート♪」
広場に向かう悠都の足取りはとても軽かった。
そして、草木に囲まれた広場に付いた悠都は、噴水の前に向かう。
ちょうど向こうから来る舞音の姿が見えたので、名前を呼んだ。
「舞音っ!」
「深空っ!」
「お兄ちゃん!」
「「「…………え」」」
三人が同時について、お互い唖然とした顔で見合わせた。
悠都は深空まで来てることに、困惑していた。
実は舞音と深空も全く同じことは考えて行動していた。
それも偶然にも変更した待ち合わせ場所までもが一緒だった。
しかし、そのことをお互い知ることはなかった。
悠都が送ったメールは舞音は見ないで消されてしまっていた。
舞音は書置きを深空の部屋に書置きを部屋に置いたのだが、深空に気づかれなかった。
深空は直に悠都に話したのだけどゲームに夢中で、返事だけをして内容は聞いてなかった。
それらによって、この状況が作られた。 だが、そのことを知らない三人は――
――どうしてこうなった!!!!
三人共同じ気持ちだった。
――その頃、何も知らない鳴月は……
「ちょっと、早かったかな」
本来の待ち合わせ場所の駅前に到着したところだった。
三十分間、不毛な言い争いの結果三人で一緒に、買い物に行くことになり、三人で横に並んで街中を歩いていた。
――予定とは違ったものの、まだ 二人っきりになるチャンスはある。
悠都はタイミングを待っていた。
夕食の買い出しをするということでデパートに入って、上に行く為にエレベーターに乗る。
その時がチャンスだった。
舞音と悠都が乗った所で、深空の注意を引かせてエレベーターを閉めて深空を撒く。
そして、二人でゆっくりとデートを楽しむ。
それが悠都の新たに立てた計画だ。
そして、実行するタイミングとなった。
舞音がエレベーターの奥に入って、続いて悠都が入るはずだった。
だが、悠都は足を止めざる負えなくなった。
「えへっ」
「なん……だと……」
深空に腕を掴まれて身動きを取れなくなったからだ。
その間に開閉ボタンが押されて、舞音だけを乗せたエレベーターが閉まって、上へと昇って行った。
――先手を取られたっ!?
「それじゃあ、行こ」
放心してる悠都は深空に腕を引っ張って行かれた。
――その頃、鳴月は……
「遅い……」
スマートフォンで三人に順々にかける。
だが、悠都も舞音も深空も二人っきりのデートを邪魔されたくないという理由で、家を出る前からスマートフォンの電源を切っていた。
その事を鳴月は知る由もなかった。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おかえり」
「だだいま~」
深空に無理矢理引っ張られて悠都は店に入る。
華やかなメイド服を着た店員が出迎えた。
「なんだ?」
「妹喫茶だよ。 メイド服で妹のような接客してくれるんだよ」
「それは分かる。 どうしてリアル兄妹で来なきゃならんのだ」
「お兄ちゃんに妹の良さを、改めて知ってもらおうと思って」
「知りたくもねぇよ」
――いや、でも妹メイドか……血の繋がらない可愛い女の子がお兄ちゃんや兄さん……そして、お兄様などと呼んでくれる。 それが有りかと言うと……。
「有りだな」
自問自答した末の結果だった。
「それじゃあ、お兄ちゃんこっちに座って」
「おぉ!」
さっきまで元気のなかった声に元気が戻っていた。
店員に案内されて悠都は空いている席に座った。
「メニューはこれね。 欲しい物あったら呼んでね」
メニューをテーブルに置くと、妹店員は他のお客の接客に戻っていた。
「あれ?」
店員に夢中でいつ間にか深空の姿がいなくなっていることに、席に座って気づいた。
「まぁいいか」
深空のことは忘れて、妹喫茶を純粋に楽しむことにした。
じっくりとメニューを眺めて注文するものを決める。
「妹よー。 決まったぞ」
「はーい」
店員を呼ぶと声が返って来たが、悠都にはよく聞き覚えのある声だった。
「お兄ちゃん、注文決まった?」
接客に来た人間を見てぎょっとした。
メイド服を着た深空だった。
「チェンジで!」
「ノーチェンジだよっ! 深空のメイド服姿見て、それなの!?」
「当たり前だ。 大体その服どうしたんだよ?」
「この店の店長さんと知り合いだから借りたんだよ。 お兄ちゃんは深空が接客するって言ってね」
「…………妹来てー。 妹プリーズ」
「お兄ちゃんは深空専門だし、もちろん、深空もお兄ちゃん専門だからね」
「俺、妹が来たら注文するんだ……。 だから早く妹~」
「メニューにある料理もサービスも全部深空のおごりだから、好きに頼んでいいよ。 お兄ちゃんが希望するならメニューにない特別なご奉仕でも……」
「ほんとの妹まだー」
「だから、深空がお兄ちゃんの妹だよ!」
「……ふん」
「鼻で笑われた!?」
「この中に一人、妹以外がいる。 それがお前だ」
「逆だよ! 深空だけが妹だよねっ!?」
「結局のとこ、深空は何がしたいんだ?」
「だからお兄ちゃんに、妹の良さを分かってもらおうっと思ってるんだよ!」
「こうして知ろうとしてるだろ」
「お兄ちゃんが知ろうとしてるのは、深空が考えてるのと違うんだよ!」
どこからか出した、「お兄ちゃんは希望」とケチャップで書かれた、オムライスを悠都の前に置いた。
「まだ注文して」
「お兄ちゃん、あーん……」
そのオムライスをスプーンで一掬いして、悠都の口元に持って行き、無理にでも食べさせようとしたが
「うごぉ!」
その前に悠都が椅子ごと後ろに倒れた。
「お兄ちゃん!?」
「深空に『あーん』などという、うらやまけしからんことなど、断じてさせん!」
悠都が倒れたのは、いつの間にか来た舞音に殴られたからだった。
「お姉ちゃん!? わぁ!?」
「メイドの深空はマジ絶対究極神!」
悠都を殴った舞音は、深空を見て一言叫ぶと舞音が深空を抱えて店から連れ去ってしまった。
あっという間の出来事に、周りの客も店員も唖然としていた。
――その頃、鳴月は……
「あいつら……」
待ち合わせの時間から一時間以上経ったにも関わらず、三人が来るのは腸が煮え返るほどの怒りを、抑えながらも律儀に待ち続けていた。
「メイド服の深空はいつも以上に神だったが、その服では目立つ。 惜しい気持ちはあるが着替えた方がいい」
深空は舞音に服屋に連れてきていた。
「深空はどんな服がいいんだ?」
「……お兄ちゃんが選んでくれた服」
深空にはさっきまでの元気はなく、瞳には生気を感じられず、声には抑揚がなかった。
「この服なんてどうだ?」
「……なんでもいいよ」
力の抜けた深空を、着せ替え人形のように服を着せては変えていった。
「うむ、これでいいな」
最終的にはウェディングドレスを連想させるような、フリルのついた純白のドレスを着せていた。
「ところで、深空。 私の服も選んでくれないか?」
「面倒だよ」
「そこは頼む!」
「……わかったよ」
「本当か!? しゃあああああああ!」
あまりの喜びでまるで男のような叫びを上げていた。
深空が選んだ服を舞音は着た。
舞音はチェック柄のシャツに、ジーパン履かせて、頭にはバンダナをつけさせ、伊達メガネをつけさせていた。
所謂、オタクファッションの典型だった。
「深空、どうだ?」
「ニアッテル、ニアッテル」
「そうか。 では、買ってくるとしよう」
満足した舞音は、深空をその場に残して、会計をしに行く。
「舞音ちゃんのオタクファッション、ギャップ萌えぇぇぇぇ!!」
「なっ!? 貴様ぁ!」
叫びながら会計を済ませた舞音を連れ出して行った。
――その頃、鳴月は……
「…………帰る」
『きっと連絡出来ないほどの急な用が出来たのだろう』と、頭の中で何度も言い聞かせることで、なんとか怒りを抑えて、諦めて帰ることにした。
「貴様……なんだここは?」
「ホテルですけど何か?」
舞音は悠都にホテルの前まで連れて来られていた。
「うご!!」
悠都の股間を何の躊躇(ためら)いもなく舞音は蹴り上げた。
その壮絶な痛みから倒れ込みながら両手で抑えていた。
「どうやら貴様は、その汚らしくぶら下がっているものを、二度と使えないようにして欲しいようだな」
「あ、ありがとうございます」
悶絶しながらもお礼をする。
「でも、中でやろ」
「入らないと言っている」
「入らない……まさか、外で! それも昼間から……そんな上級者な。 けどお兄ちゃん頑張ちゃうよっ!」
「そう言う意味ではない!」
倒れたままの悠都の背中をぐりぐりっと、地面に押し付けるように踏みつける。
「はふー」
悠都は満足げに気を失っていた。
深空を探しに舞音はこの場から去っていた。
「お兄ちゃ~ん」
後から来た深空が来て、一緒に来た深空と同い歳くらいの少女と二人掛かりで、悠都は引きずって連れて行った。
――そんな三人が交互に入れ替わるデートが幾度も繰り返されて、ついに夕方になって三人がかち合った。
「お兄ちゃんと朝まで深空がデートするんだもん」
「俺がするのは舞音とだっての」
「私が貴様などとするがわけない。 それより、深空は私とどうだ?」
そんな争いが急に止まって、三人とも顔を真っ青にしていた。
三人にとも圧倒的な殺気を背後から感じたからだ。
殺気に恐怖しながらも恐る恐る振り返る。
そこには奴がいた。
「ふふふ……みーつけた。 あんた達なにしてるの?」
その殺気を放つ正体は鳴月だった。
鳴月の体全体からドス黒いオーラが出ていた。
「ふふふ……待ち合わせ場所には来ないし、家にもいないし、携帯にも出ないし、ちょっと心配してみたら……これね。 くはははは…………」
鳴月は結局自分の家に帰らないで悠都達の家に行ったのだが、もちろん三人ともいるわけもなく、ずっと街中を探し回っていた。
「おーい、鳴月さーん」
「……さぁ、一緒に帰りましょう」
「「「ひっ!!!!」」」
鳴月の急に満面の笑顔になったが、逆にそれが三人に恐怖を与えていた。
「……散開!」
「「おー!」」
悠都の掛け声と同時に、三人は別方向に走って鳴月から逃げた。
「あっ! こらぁ! こういうとこは息ぴったりなのよ! けど、逃がさないわよ」
「げっ」
悠都は逃げながら真っ赤な腕章をつける鳴月を見て、ますます嫌な顔をする。
「うぶっ!」
瞬く間に舞音に追いついた鳴月は、容赦なく腹部に拳をたたき込み気絶せさた。
「それトランザぶっ!」
続いて深空も同様に気絶させられた。
「ちょおまっ!」
「はっ!」
そして、結構離れたはずの悠都にもあっという間に追いついて、二人よりも拳に力を込められて気絶させた。
「流石、鳴月。 相変わらず、赤い物身につけると三倍速く動けるね。 でも、それなんてシャア?」
悠都が気がついた時には、縛られた状態で家の広間にいた。
深空も舞音はまだ気を失ったままで、悠都の後ろで縛られていた。
「あんたは知ってるでしょ? 子供の頃、憧れてちょっと訓練したら出来ちゃったって」
「普通訓練して出来るものじゃないけどな。 にしても、相変わらず、容赦ないな。 俺と舞音が大怪我したらどうすんだよ!」
その中に深空が含まれてないところが悠都らしかった。
「あんたらの異常さと丈夫さだけは信頼してるわ」
「そんなこと信頼されたくねぇー」
「さてさて、二人が起きたら朝まで正座でお説教だから、覚悟してね」
笑顔で恐ろしい事を言っていた。
始めに聞いた時は、『朝までは大袈裟だろう』、と悠都は軽視していたが、本気で夜から朝まで三人はお説教された。
その間、飲食どころかトイレにすら行かせてもらえず、もはや拷問だった。
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