第2話「『くんかくんか』する物のは、人によって違うもの」

「ねぇ、お兄ちゃん、深空のパンツしらない?」


「しらねぇよ」


 風呂上がりで体がまだ火照ってる深空が悠都の部屋に来ていた。

 質問をされたが、悠都には全く興味がないことのため、テレビ画面から一切目を離さずに、格闘ゲームをしていた。


「おかしいなー。 よく深空のパンツなくなっちゃうだ。 なんでかな?」


「知るか。 てか、なんで俺に聞く?」


 ゲームの邪魔になってるので、腹が立ってきていた。


「お兄ちゃんが取ったんじゃないかなっと思って――あ、でも取っててもお兄ちゃんを咎めたりしないよ。 むしろ、嬉しくて……」


「いや、だから、俺は知らないって言ってるだろ」


 すると、悠都は頭に生暖かい感触を感じた。


「なんだ?」


「深空のパンツを被せてあげたんだよ」


「なんのつもりかと聞いている」


「お兄ちゃんへ深空の脱ぎたてをプレゼント! 深空には分かる! お兄ちゃん照れてるんだよね?  深空もちょっと恥ずかしいけど、お兄ちゃんのためなら」


「はっ!」


「うぷっ!?」


 悠都は頭に被されたパンツを鷲掴みにすると、深空の口に向けて勢いよく叩き込んだ。


「汚い物を頭に被せんな! それにゲームの邪魔するな」


「うぺぇ! はぅ~、そんなものを妹の口に突っ込むお兄ちゃんもどうかと思うよ! けど、そんなお兄ちゃんが大好きです! あ、お兄ちゃんの髪の毛ついてた……はむっ!」


「…………」


 うっとりとした表情で顔を赤く染める深空の襟首を、悠都は無言で掴んで、部屋の外に投げ出して扉を閉めた。


「はぅ! お兄ちゃんの髪の毛を堪能してる間に追い出された!?」


 深空はがくっと肩を落として、落胆した。


「さて、行ったか」


 足音を聞いて去ったことを確認すると、ゲーム機とテレビを消して机の下をがさごそと漁る。

 机の下から出てくると、悠都は真紅の色をした細長い布を握っていた。

 それは舞音のツーサイドアップの為の両サイドを束ねているリボンだった。


「うへへ……そんじゃあ、お楽しみタイムと……」


 そのリボンを顔に近づけーー


「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」






「深空また参上!」


「み、深空! どうした!?」


 慌てて舞音のリボンを背後に隠した。


「忘れてたことあったから戻ってきた」


「何をだよ?」


「あげるだけで、お兄ちゃんのパンツもらうの忘れてた。 ちょうだい」


「一生忘れてろ!」


 深空が差し出して来た両手をパシッと冷たく叩いた。


「それに受け取り拒否したから、もらってない」


「分かった。 それじゃあ、お兄ちゃんにはこっちをあげるよ!」


 深空は黒い文字で「お兄ちゃんは正義」と、書かれた白い布を差し出した。


「……何の真似だ?」


「深空が付けてた鉢巻だよ。 お兄ちゃんはこっちの方がよかったんだね。 いくらでもくんかくんかするなり、ぺろぺろするなり、youやっちゃいなよ!」


「お前がそう思うんならそうなんだろう、お前ん中ではな」


「うんっ」


「……ちっ」


 皮肉が通じなかったことに苛立ち、悠都はつい舌打ちしていた。


「さぁ、どうぞ」


「だから、いらな――」


「そのリボンお姉ちゃんのだよね?」


「うっ」


 直ぐに隠したものの、しっかりと深空に見られていた。


「お姉ちゃんに言ったら、どうなっちゃうかな? 少なくてもそのリボン取られちゃうんじゃないかな」


 深空は無邪気に笑いながら、分かり易い脅しをかけていた。


「ぐっ」


「どうする?」


「わかった。 もらえばいいんだよな?」


「うん」


「もらうよ」


「やった」


 折れた悠都が鉢巻を手に渡されると――


「着火」


「へっ?」


 ――ボッ

 悠都がライターで鉢巻に火をつけて、あっという間に燃え尽きて灰になった。


「もらったもん。 どう扱おうと俺の勝手だよな?」


「ぎゃああああああ!!!」


 目の前で燃えていく様を眺めた深空は絶叫する。


「良い子は真似しちゃ駄目だよ」


「自慢の手作りグッズ、パーフェクトお兄ちゃんシリーズが……」


「変なシリーズ作ってんなよ!」


 鉢巻だった灰で汚れた床を掃除機で悠都をかけて、一分も経たずに元の綺麗な床になった。


「用すんだなら帰れ」


「ふ、ふぁい」


 あっさりと頷いて深空は自分から悠都の部屋を出た。


「いい気分が削がれちまったな。 明日の着替え用意したら、PC起動させて動画見てニコニコするか」


 タンスからを服を取り出していくと――


「あれ、靴下足りないような」


 服に拘りが悠都にはなく、数が少なかったので、足りないものには直ぐに気がついた。

 思い返すも間違いなくタンスに入れたと結論付ける。

 深空が取ったかと考えるが、深空の目的はパンツだったので、それはないかと否定する。


「だとすると……」


一つの結論に達して、悠都はすぐに行動に移す。






「……くんくん……はぁ……はぁ……深空ぁ……」


 舞音は自分の部屋で、 ベッドに横になって盗んだ深空のパンツに顔埋めて、心地よい快楽から悶えていた。

 そんな至福の時間を感じてると――

 カチャカチャっと扉の外から音がした。


「ん?」


 音が気になってパンツに埋めていた顔を上げて、扉の方に向ける。


「……くんくん……はぁ……はぁ……深空ぁ……」


 舞音は自分の部屋で、 ベッドに横になって盗んだ深空のパンツに顔埋めて、心地よい快楽から悶えていた。

 そんな至福の時間を感じてると――

 カチャカチャっと扉の外から音がした。


「ん?」


 音が気になってパンツに埋めていた顔を上げて、扉の方に向ける。


「やっほー。  来たよー!」


 音が止まると勢いよく扉を開けて、悠都が入ってきた。


「ぬぉ!? 貴様ぁ!」


 慌てて布団の下に手を潜り込ませて、深空のパンツを隠した。


「き、貴様勝手に入って来るな! 鍵はどうした!?」


「ふっ、俺の神の指先にかかればこんなの朝飯前さ」


 鍵を開けたこと誇らしげに胸を張って言う。


「威張って言えることか!」


「うぶっ!」


 舞音は悠都に蹴りをいれて、うつ伏せに倒れた。


「どうやら、うちに腐ってどうしようもない盗っ人がいたようだな」


「あふっ……」


 そのまま頭を舞音はげしげしと踏み付けるが、悠都は踏まれてるにも関わらず恍惚な顔をしていた。

 解放されたて起き上がった悠都だったが、まだ物足りなさそうだった。


「それで貴様は私なんのようだ?」


 床に正座させてる悠都を軽蔑の眼差しで見下げる。


「靴下がなくてさ。 舞音が盗ったんじゃないかと……うごぉ!」


 舞音が座ったまま無言で、悠都の顔面をひと蹴りした。


「つまり、私が盗みを働いたと? それもよりにもよって、貴様の靴下だと……どこまで、私に屈辱を与えるつもりだ」


 元から冷たく見下げていた舞音の瞳がより冷たくなっていた。


「舞音は何も盗んでないと?」


「当たり前だ」


「じゃあさっきの深空のパンツは?」


「な、なんのことだ?」


 事実を突かれて、焦りから大粒の汗を垂らしていた。


「そっかそっか。 それじゃあ、深空にパンツがあったこと言って来ようかな」


「っ!?――待て! 貴様!」


 部屋を出ようとした悠都を必死な声で止める。


「ぐっ……な、何が目的だ?」


 舞音の言葉を聞いて、にんまりっと笑う。


「明日、俺の後にお風呂入って。 もちろん、同じお湯で湯船浸かってね」


「……貴様の入った汚水で、私の純白の体をけがせというのか!」


「そういうこと」


「くっ……」


 舞音は顔を歪ませ悩む。


「……分かった。 その条件呑もう」


 悩んだ末、唇を噛みながら怒りを堪えて、首を縦に振った。


「舞音ちゃんが俺の入った風呂に――うへへ……」


 想像しながら気持ち悪いほどの笑みを浮かべていた。


「そんじゃあね~」


 悠都は気分上々で舞い上がった調子で、舞音の部屋を出て行った。


 舞音は明日の風呂のことを考えて憂鬱になりながら、今日の風呂の準備をしようとタンスの中を漁る。


「むっ」


 自分のリボンが足りないことに気づいた。


 タンスの奥の方や普段置かないような場所まで探してみるが、見つけることは出来なかった。


「このリボンは昨日まではあったはず……」


 昨日から今までのこと振り返ってみるが、無くすような心当たりはなかった。

 さっきの間に悠都が盗んだかと考えたが、そんなタイミングはなかったと頭で否定する。


「ならば……」






「くんか……くんか……」


 部屋に戻った深空は、悠都の靴下を目の前に鼻をひくひくとさせていた。

 深空の目的は、悠都のパンツではなく靴下で、掃除機をかけている間にちゃかり盗んでいた。


「……くんか……ふはぁぁ……もしかして、深空って変態さんかな……? でもお兄ちゃんの身に着けてるものは、全部清潔だし変じゃないよね。 ぐへへへへ」


――コンコン。


「っ!?」


 ノックに体をびくっと震わせ驚いていた。


「深空、用があるんだが……入っていい?」 


「なんだ、お姉ちゃんか。 お兄ちゃんがいつでも入って来れるように、鍵かけてないから入っていいよ」


 舞音だったことに安心して、入って来るのを許可した。


「失礼する」


「くんか……むふー」


 舞音が入って来たにも関わらず、気にも止めず深空はうっとりとした表情で続けていた。

 そんな様子を見て舞音は苦笑いを浮かべていた。


「深空、 話があるのだが」


「ふぇ? 深空の至福な時を邪魔するほどの用なの?」


 やっと靴下を床に置いて、嗅ぐのをやめて舞音の方を見た。


「あぁ、私のリボンを知らないか?」


「知らないよ」


「いや、盗ったとか疑っていたわけではないぞ。 それに盗ったしても批難するつもりはなく、むしろ光栄というか……」


 舞音は聞いてないことを言い訳の用に話した。


「……くす、ぷははははっ」


 深空はこみ上げたように笑い出した。


「?……何故笑ってるんだ?」


「だって、お姉ちゃんが変なこと言うだもん」


 深空は一息ついて落ち着いた。


「わたしがお姉ちゃんのリボンなんて盗るわけないよ。 お金もらっても遠慮したいよ」


「そ、そうか……ところで、それは?」


「お兄ちゃんのだよ。 あ、お兄ちゃんに言っちゃ嫌だよ」


「うむ、深空がそう言うなら死んでも言うまい」


 深空を崇拝してる舞音には、脅すことは出来なかった。


「うん、死んでも言わないでね」


 言った方も言われた方も本気だ。


「用が済んだんなら、お姉ちゃん出てってくれないかな」


「だが、私はもう少し深空とのスキンシップを」


「深空は忙しいのー」


「なら仕方ないな」


 残念そうに肩を落としながら部屋から出って行った。


「ふぁ……はぁぁ……むふー」


 舞音が出てったのを確認すると、何事もなかったように興奮しながらさっきの続きを始めた。

 そして、気がつくと夜明けになっていた。

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