兄と妹達の三角形
結架ネア
第1話「三角形の紹介」
「
「ふむ、貴様は私の前から消えて、ゴミ溜めに頭から突っ込んで窒息死すべきだな」
「もう照れちゃって。 それに貴様じゃなくて、
「何故、私が汚らわしい貴様などをそのように呼ばねばならない?」
「それは舞音が俺の妹だから!」
「妹とは言っても血は繋がってない。 よって、呼ぶ必要などない」
「義理だからこそいいんだよ! ほら、呼んでみて!」
「……では、生涯に一度だけ言ってやろう――汚兄ちゃん」
「あれれ、字が変な気がしたけど気のせいだよな」
「ふん、これで満足したな。 ならば、私の前から消えろ。 そして、自分の部屋から一生を出ずに人生を終えろ」
「お兄ちゃん、おはよー」
悠都が自分の部屋に入ると、実妹の
「深空、起きて来てたのか」
「うん、さっき起きたんだよ」
「そっかそっか。 で、なんで起きたばかりのお前が、俺の部屋でパジャマ姿して我が物顔して寛いでるんだ?」
「大したことじゃないよ。 ただお兄ちゃんのベッドで、いけないことしたいなーって思って。 できれば二人で!」
「出てけ」
「ふぇ? しないの?」
不思議そうに深空は首を傾げる。
「しねぇよ! なんで、ガチ妹のお前なんかとしなきゃならんのだ!」
「実妹だからこそいいんだよ!」
「最近の作品は実妹がメインヒロインの作品だって多いんだよ。 だから、近親相姦だって問題ないんだよ。 さぁ、お兄ちゃん、深空ルートを攻略しよ」
「問題あんだろ! つうか、攻略される人間が言うことか」
「深空は期間限定の恋人みたいな中途半端なことはしないよ。 むしろ、永遠の恋人だよ! けど、いずれは永遠の夫婦にランクアップはしたいかも!」
「しねぇよ! おもてぇよ! いいからさっさと出てけ!」
出ていこうとしない深空を無理にでも部屋から追い出した。
廊下に追い出されて自分の部屋に行こうとした深空は、帰ってきたばかりの舞音と廊下で鉢合わせした。
「深空、ただいま」
「お姉ちゃん、帰ってたんだ」
「さっきな」
「ふーん……」
「それで深空……これから私の部屋で二人でお茶でもどうだ?」
「ふぇ? なんで深空がお姉ちゃんなんかと、二人でお茶しないといけないの?」
「ふむ、深空を部屋に連れ込んで、押し倒しペロペロしたいからだ!」
「はわっ!? ペロペロって深空を……それって、いけないことなんじゃないかな……」
深空は困った表情をしながら、オロオロとする。
「それより、お姉ちゃんは便器でもペロペロしたらいいんじゃないかな」
「べ、便器か……」
「うん。 お姉ちゃんには、ずっとそっちの方がお似合いだと思うよ」
「そ……そうか。 深空が言うならそうなのだろう。 では、早速してくるとしよう」
「頑張ってね」
何の不満もなく、やる気に満ちた顔で舞音にトイレに向かった。
その光景を深空は手を振って見送る。
「ぐおらぁぁぁぁぁ! 深空ぁぁぁぁぁ!」
「わぁ!? お兄ちゃん!」
「俺の嫁に何させようとしとんだぁぁぁ!」
深空に罵声を浴びせながら横を通り過ぎて、舞音を追って行った。
トイレに入って今まさにやろうとしていた舞音の行為を悠都は取り押さえて止めた。
「何をする貴様っ! ゴミの固まりを擬人化したような貴様の汚らしい体で、私に触れるなぁぁぁ!」
「舞音がやるってなら、かわりに俺がやる!」
「だめっ! お兄ちゃん! お兄ちゃんがやるってなら、深空がやる!」
二人で争ってる中、今度は深空までやってきた。
「俺がっ! 」
「私がっ!」
「深空がっ!」
「ごらぁぁぁぁ! 変態ども!」
「
「ぐっ!!」
「はぅ!!」
いきなり入ってきた女性が一本に束ねた茶髪を左右に揺らしながら、三人を蹴り飛ばしていた。
「たくっ。もうあんたらときたら……」
鳴月と呼ばれた女性は蹴り飛ばして倒れたままの三人を見下げながら、頭を抱えていた。
「鳴月、何するんだよ?」
「それはこっちの台詞よ。 あんたら今何しようとしてたわけ?」
「何って……」
「「「――便器の底をペロp」」」
「ごめん。 聞いたあたしが悪かった。 もう言わなくていいわ」
鳴月は疲れた様子で、深く溜め息をついた。
「いいわ。 悠都達の幼馴染として、今いないあんたらの両親から面倒を頼まれてるんだからね。 何か変なことになったら、あたしの責任になるんだからね」
「だか鳴月さん。 私には何の問題もないぞ」
「深空も~」
「もちろん、俺もだ。 ということで、俺らには何も面倒を見てもらうようなことなんてないぞ」
「どの口が言うのかしら――それがありまくりだから言ってるのよっ! ……はぁ。 これから一人一人面談するわよ」
鳴月と深空は鳴月の部屋で世界的に有名な黄色い電気ネズミのクッションに座って、二人きりになっていた。
この宇佐美家にも関わらず、この家には鳴月の部屋がある。
宇佐美家は結構なお金持ちで、この悠都達が住んでる自宅も、一般的な家というより屋敷だった。
その為、三人で住むにはとても広く、空部屋も多かったので、その一部屋を毎日のように来る鳴月に使わせてる。
屋敷の鍵まで渡されており、鳴月は宇佐美家の一員のように信頼されていた。
「えーと、深空ちゃんは学校行かないの?」
「行かないよ。 家の方が楽しいし、お兄ちゃんがいるもん」
――深空は中学校の入学式の翌日から不登校になって二年が過ぎた。 けど、ずっと引きこもってるわけじゃないのが幸いだった。 ちょくちょく友人と出掛けたりはしている。
「そのお兄ちゃんのことだけど、深空ちゃんはどう思ってるかな」
「深空の最高のお兄ちゃんで王子様。 お兄ちゃんの全部が好き」
嬉々として深空は兄のことを話していた。
「そ、それじゃあ、舞音ちゃんについてはどうかな?」
「お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ」
「そのお姉ちゃんをどう思ってるのかな?」
「うーん……。 どうも思ってないよ」
「どうもって何も……?」
「うん。 居てもいなくても同じだし、どうでもいいかな」
屈託ない笑顔で浮かべながら深空は酷いことを言っていた。
だが本人には自覚はないだろう。
――これが悠都の本当の妹の宇佐美 深空。 兄には異常なまでに執着してるけど、姉には無関心。 そして、普段はとても良い子なんだけど無邪気過ぎて、悪意なく人を傷つけてしまう。
「そのお兄ちゃんへの興味を、舞音ちゃんにも少し向けることは出来ないかな」
「無理だよ」
深空は間髪を容れずに拒否した。
今度は深空が座っていた位置に舞音が座って、二人きりになっていた。
「自分で言うことではないのだが――だがあえて言おう! 私は優秀な人間であると。 つまり、何の問題もないはずだ」
「普段の舞音ちゃんならね」
――宇佐美 舞音は成績優秀で運動神経抜群で、クールで他人にも優しく、生徒会役員とまさに優等生を絵に描いたような人間だ。 おまけに容姿端麗で、年上の鳴月よりスタイルがいいことは一目瞭然だ。 深空が可愛い系の美人なら、舞音は綺麗系の美人だ。 だか、それは舞音の普段の話で、悠都と深空が関わると話は変わってくる。
「深空ちゃんのこと、どう思ってるのかな?」
「うむ、神聖で神々しい素晴らしい存在だ。 天使――いや、天使や神を超越した存在といってもいいだろう。 世界は深空が中心で廻っているのだからな」
真面目な顔しながらも興奮してる様子で、壮大なこと語っている。
しかし、彼女にとって冗談ではなく、紛れもなく本心だ。
「じゃあ悠都のことは?」
「クズだな。 なぜあのような生物が いるのか理解出来ない」
舞音は悠都の話題が出た途端、不愉快な表情を浮かべた。
――これが悠都の義理の妹の宇佐美 舞音。 深空にはまさに神を崇めるがごとく揺るぎ無く崇拝し、性別を越えて愛してもいる。 けど、兄のことは深く軽蔑し、出る言葉は罵倒ばかりだ。 この二人が関係したことには豹変してしまう。 それは外での舞音と、別人と言えるほどのものだった。
「深空ちゃんへの感情を悠都にも少しだけ向けることは出来ないかな?」
「不可能だな」
舞音は間髪を容れずに拒否した。
「働け、ニート」
舞音と入れ替わって、座った悠都に向けた容赦のない第一声。
「それいきなり言うこと!?」
「言うべきことを言ってることだけよ」
幼馴染である悠都には、特に厳しかった。
「ふぅ」っと疲れたように鳴月は溜め息つく。
――中学と高校は一緒だったのだけど、高校卒業後には、悠都は大学にも行かず、就職どころか就活もバイトも何もせず、完全にニート状態になっていた。
「悠都は舞音ちゃんのこと、どう思って……」
「俺の嫁だぁぁぁぁぁぁぁ!!」
鳴月が尋ね終わるよりも早く、悠都は答えた。
「…………」
「俺の最高の嫁だぁぁぁぁぁ! いだぁ!」
「最高を付け加えて二度も言わんでいいっ!」
騒がしい悠都の頭を鳴月は力強く叩いた。
悠都の返答を容易に想像は出来たものの、言葉に出されると改めて鳴月は呆れる。
「深空ちゃんのことはどう思っての?」
「まぁ、それなりに大切に思ってるぞ」
「妹として?」
「それはないな。 実の妹は妹じゃないからな」
――その理屈は絶対おかしい……。
「じゃあ何?」
「友人とも違うしな……。 ペットに向ける愛情とかが近いかもな」
「ペットね……」
――これが宇佐美 悠都。 義理の妹の舞音には罵倒されても猛烈にアタックし続けるけど、本当の妹の深空ちゃんのことは嫌いじゃないし興味もあるけど、妹とみてない。 そんなとこを除けば、ふざけたとこはあるものの、少しはまともかもしれない。
「その舞音ちゃんへの妹としての愛情を、深空ちゃんにも少し向けること出来ない?」
「ありえないな」
悠都は間髪を容れず拒否した。
「てかさ。 鳴月、毎日のようにうち来てるけど、俺ら以外に友達いないんじゃ」
「勝手にぼっち扱いすんな! ちゃんと、いるわよ!」
鳴月がクッションで数回叩きながら否定する。
「なら大学の後、他の友達と遊んだり、サークル入ったり、バイトしたりしねぇの?」
「あんたら以外とも遊んだりしてるわよ。 サークルには興味ないし、バイトはやってるわ」
「バイトやってたのか? それなら、俺らの家来る余裕とかないんじゃないか?」
「大丈夫よ。 今ここでやってるもの」
「……今ここで?」
「今ここで」
「……ちなみに、どんなバイト?」
「あんたらの面倒見るバイト」
「…………」
「…………?」
「バイトじゃねぇよ!」
数秒の沈黙からツッコミを悠都は入れる。
「あんたらの両親から、お金もらってるんだからバイトよ」
「衝撃の事実!?」
「日給五千円」
「それも結構いい額! ほんとにバイトだったんだな!」
「当たり前でしょ。 いくら幼馴染だって、タダであんたらの面倒なんて、やってられないわよ」
「当たり前のことだったんだ。 結構ショック受けたんですけど……」
「へぇー、ショックなんだ」
鳴月は今日ここに来てはじめて笑みを浮かべた。
「そりゃ幼馴染の善意だと思ってたからな。 予約して発売日に届くはずのゲームが、次の日になった時くらいにショックだな」
「……その例えだと、あまりショック受けてるように感じないんだけど」
今日ここに来て始めて見せた鳴月の小さな笑みもあっという間に消えて、いつもの仏頂面に戻っていた。
「いやいや、分かっちゃいないな。 発売日に欲しがるヲタとして、かなりショックなんだからな」
「そ、そう」
疲れた様子で鳴月は落胆して項垂れる。
「もう疲れたから帰るわ」
「夕飯は?」
「自分らでなんとかしなさいよ」
「りょーかい。 そんじゃあまた明日」
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