何故、靴磨き職人では駄目なのか?
結局、似たり寄ったりらしい……
夜、佐丸はいつものように、ひんやりした靴置き場のスノコの上にしゃがんでいた。
何故、就職もしない桜子の結婚相手がまだ決まっていなかったのが疑問に思っていたのだが、相手が俺だったからなのか?
執事をやっている限り、桜子の結婚相手には選ばれないだろうと小方が言ってきたのは、すべてを知ったうえでの忠告だったのだろうか。
執事は主人の秘密のすべてを知り、もらすことはない。
キイ、と入り口の木の扉が開いた。
現れたのは、今夜は魁斗ではなかった。
もう風呂に入ってきたらしい桜子が、ネグリジェの上にガウンを羽織って立っていた。
横にちょこんと腰掛ける。
なにしてるの、とも訊かなかった。
自分の手に、靴はないのに。
桜子。
本当にあそこを派遣会社にするつもりか?
芹沢のために。
そう訊きたかったが、なんだか口から出なかった。
おのれの膝で頬杖をつき、ぼんやりしていたが、自分がそうしていたら、桜子も寒い此処で、ずっとそうしていそうだと気がついた。
目の前にもある、天井までの高さのシューズボックスを見ながら、口を開く。
「桜子、靴を買え」
えっ? と桜子が自分を振り向いた。
「磨く靴がなくなった」
となにも磨かないまま、クロスをつかんでいると桜子は笑う。
「私の発想と変わらないじゃない」
と言って。
「じゃあ、銀食器も買いましょうよ」
と言うので、少し笑った。
前にも後ろにも並ぶ靴を見ながら、佐丸は呟いた。
「芹沢はほんとに靴磨きが好きなんだな。
……俺も好きだが、これだけを仕事にしたいとは思わない。
なんでだろうな」
「うーん。
そうね。
しばらく磨いてたらわかるかもよ」
と笑う桜子には、何故だかその答えがわかっているような気がした。
俺にもわからないのに、生意気な、と思う。
「そういえば、今日は二人にプロポーズされたわ」
桜子は唐突にそんなことを言い出した。
「……待て。
誰だ、二人って」
京介は聞いていたが、もう一人は知らないぞ、と思っていると、
「唐橋先生よ」
と桜子は笑う。
「なんかフォローのために言われたの……」
と苦い顔で言ってくるが、本当だろうかな、と思っていた。
だって、あの先生、結局、独身なんだろう?
唐橋も会長と面識があるようだった。
そのときの話を聞く限り、会長が彼を気に入っていてもおかしくない。
京介も、先生も―― か。
なり損ねた婚約者の席にいつ誰がかわりに座ってもおかしくない気がしていた。
なんてったって、みんなちゃんと自信を持って、働いてるもんな。
俺のような迷いはないようだから。
よし、と佐丸は立ち上がった。
「明日は靴を見立ててやる。
早く履いて汚せよ」
いやー、ちょっと意味がわからないんだけど、と苦笑いしながら、桜子は後をついてきた。
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