砂漠に女神様がっ!
「おっ。
砂漠に女神様がっ」
桜子が佐丸の母を見送っていると、背後から、いきなりそんな声がした。
振り返ると、見るからに暑そうな顔をした京介が立っていた。
「砂漠にアイスコーヒーの女神様が」
と言って笑う京介に、はいはい、と苦笑いしながら、
「入ってったら?
ちょうどお茶にするみたいだから」
と言う。
「アイスコーヒーかどうかは知らないけどね」
と言うと、
「ありがとう、女神様。
此処に来ると安らぐよ」
と京介は祈るように手を組んで見せる。
そういえば、キリスト教の幼稚園だったな、と思い出す。
いつもヒゲの園長先生が聖書のお話をしてくれていた。
……なにも覚えてなくてすみません、と園長先生に心の中で謝りながら、
「それ、私でじゃなくて、佐丸の淹れたアイスコーヒーででしょ」
と笑うと、
「いや、そんなことはないよ」
と京介は言い出す。
「お前を見ていると、なんだか悩んでるのが莫迦莫迦しくなるんだよな」
それ……褒められているのでしょうかね、と思いながら、じゃあ、お前は悩むことがあるのか? と問いたくなるような、あっけらかんとした京介の顔を見ていた。
ちょうどその頃、佐丸は桜子を呼びに来ようとしていた。
あいつめ、何処まで、猫を探しに行ってんだ、と思いながら、スタッフルームから出た佐丸は、今更、何処に入れるつもりなのか、大きな鉄骨を運んでいるヘルメット姿の男たちに出会った。
その男たちに抱えられた赤茶色の鉄骨の先端になにかが乗っている。
白、茶、黒。
ぼてっとした間抜け面。
思わず、呼びかけていた。
「……手嶋さん?」
手嶋さんは鉄骨の上で揺られながら、こちらを見た。
あんた、なに? というように。
此処らの人たちに餌をもらっているせいか。
意外に人懐こかった手嶋さんを腕に抱き、佐丸が外に出たとき、離れた交差点を渡っていく人影が目に入った。
……距離があるのにな。
何故、わかるんだろう、とぼんやり思っていると、
「おっ、佐丸っ」
と声がした。
京介、貴様~っ!
何故、桜子と居るっ! と彼女の横に立つ男を見て思っていると、猫に気づいた桜子が、
「あ、手嶋さ……」
と言いかけ、チラとさっきの交差点の方を気にした。
だが、なにも触れずに、
「それが手嶋さん?」
と微笑みかけてくる。
恐らく、あの母親と会話して。
その会話内容から、自分と会わせない方がいいと判断したのだろう。
まあ、そういう人だからな、と桜子の気遣いをありがたく思いながら、自分も知らぬフリをして、
「お茶が入りましたよ、桜子様。
杉原様もよろしかったら……」
と言いかけたとき、考えなしの京介が言ってきた。
「そうだ、佐丸。
今、お前の母ちゃん見たぞ」
あ~……という顔を桜子がする。
「……帰れ、京介」
ええーっ!?
飲ませてよ、佐丸ーっ! と叫ぶ声を聞きながら、手嶋さんを連れて、さっさと中に入った。
ぽってりとした安心感のある重さだった。
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