メガネが入れ替わりのスイッチ
逢原さんが僕……いや今はクロちゃんか。ややこしい。とにかく僕達に近づいていた。
「……これ」
彼女の手には、僕のメガネがあった。良かった、どこにも傷はついていないみたいだ。メガネのことじゃない、逢原さんのことだ。彼女の身体は怪我もなく、綺麗なままだ。
「ああ、サンキューな」
メガネを受け取り、クロちゃんはそれをかける。
『(うっ!)』
メガネをかけた途端、また強い嘔吐感を覚えた。さっきと同じ、内臓が反転し、身体が宙に浮くような感覚。とても気持ち悪い。
僕だけでなく、クロちゃんもこの嘔吐感を感じているみたいだった。頑張って耐えてクロちゃん、逢原さんの前でゲロをするなんて洒落にならない。
吐き気が治まると、身体が僕の意思通りに動くようになっていた。僕は指をグー、パー、グー、パーと開いたり閉じたりしてみる。
さっきまでクロちゃんが身体の主導権を握っていたけど、元に戻ったらしい。
どうやらメガネ着用の有無が入れ替わりのスイッチになっているようだ。
「……平気?」
気持ち悪そうにしている僕に、逢原さんは言う。
「ああ、うん平気。そういう逢原さんは大丈夫?」
正直言うと身体の節々が痛いけど、そんなことよりボクは彼女の方が心配だった。
もし彼女の身体に異変が怒ったら、町をひっくり返してでもさっきの男を探して、呪ってやる。
「……問題ない」
良かった。僕は安堵する。
逢原さんの後ろにはあの子供が隠れていた。
僕は膝を曲げて彼の目線に合わし、まだ怖くてガクガク震えている子供に優しく声をかける。
「ボク、大丈夫、安心して。怖い人は帰っちゃったから。もうすぐ暗くなるし、君もお家に帰りなさい」
僕は彼の小さな頭を撫でる。すると、安心したのか、彼の身体の震えは徐々に静まっていった。
「う、うん……ありがとう、おにいちゃん、おねえちゃん」
バイバイと手を振りながら大通りに走っていく子供を、ボクと逢原さんも手を振りながら見送った。
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