覚醒

 また僕の身体が勝手に動く。男を背負い投げの要領で投げ飛ばした。

 男は地面に叩きつけられ、砂埃が舞う。


「(どうやら、漫画みてーなことが起きたようだぜ、史郎)」


 クロちゃんが頭の中で話しかけてくる。


 どうしてかは分からない。

 今まで一度もこんなことは起きたことはなかったのに。

 今、僕の身体は僕のものではなく、クロちゃんのものになっていた。

 人格が入れ替わったのだ。それこそ、クロちゃんの言う、漫画みたいに。


「(何のはずみで入れ替わっちまったのかは分からねーが……)」

「てめえ、この野郎!」


 投げ飛ばした男が立ち上がり、こっちに突進してきた。

 だがその瞬間、クロちゃんの拳が男の顔にめり込んだ。


「あとは俺に任せな」


 スポーツ番組でプロボクサーがやるみたいに、拳が綺麗に相手の顔面にヒットする。

 男はその場に倒れこむ。

 見ると彼は鼻から血を垂れ流していた。無理もない、自分が突進してきたエネルギーがそのまま顔面に喰らったようなものだもの。

 こういうのをカウンター攻撃っていうんだっけ。


 よく見ると、男の歯が欠けていた。近くに、破片が落ちている。殴られた衝撃で割れてしまったらしい。

 ちょっと可哀想だけど、逢原さんに酷いことをした罰だと思えば、罪悪感も少ない。ざまーみろいい気味だ、とまでは言わないけど、少し胸がスッとした。

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