第2章 覚醒

クロちゃんは肉が超好き

 放課後、僕はいつもの帰り道とは違う道を歩いていた。今日の夕飯の買出しに、近所のスーパーへ寄るためだ。

 両親のいない僕は一人暮らし、いやクロちゃんを含めると二人なのかな。まあ、とにかく自炊している。


「(今日の晩飯は何にするんだ?)」


 クロちゃんに質問され、僕は考える。昨日は豚カツ、一昨日はカレーライス。そして今日はどうするか。


「(うーん焼き魚かな)」


 悩みに悩んだ結果、魚料理にすることにした。流石に三日連続で肉と言うのは、お財布的にも、栄養バランス的にも良くない。


「(えー魚かよ、肉にしようぜ、肉)」


 だが、クロちゃんは不満らしい。献立にケチをつけてきた。


「(にーく、にーく、にーく!)」


 クロちゃんは頭の中で音頭をとる。ミンミンゼミならぬ、ニクニクゼミが僕の頭の中に生まれた。


「(いいか、史郎。肉にはな、筋肉を作るタンパク質が豊富に含まれているんだ。お前は成長期だろ、今のうちに肉食っとかねーと、将来ガリガリのじいさんになっちまうぞ)」


 ニクニクゼミがテレビの健康番組で放送されていそうな単語を並べ、もっともらしいことを述べる。 確かに、タンパク質は三大栄養素の一つ、必要不可欠なものだ。クロちゃんの言っていることは正しい。


 でも僕は騙されない。クロちゃんはただお肉が食べたいだけなのだ。自分の欲望のために、それっぽいことを言っているだけなのだ。僕の健康のことなんて、これっぽっちも考えていない。

 だからちょっと罠に嵌めてみる。


「(そっか、そっかクロちゃんは僕の身体のことを考えて、肉を食べるように言ってくれてるんだね)」

「(おう! なんたって史郎は大事な相棒だからな! 史郎には長生きしてもらいたいしな!)」

「(タンパク質は大事だもんね)」

「(ああ! 大事だ!)」

「(じゃあ、今日は鯖にしよう。鯖はタンパク質が豊富だからね)」

「(な!?)」


 クロちゃんが絶句する。しめしめ、まんまと罠に嵌ってくれた。こんなふうに自分の考えた作戦が上手くなんて、僕は笑ってしまう。

 でもクロちゃんは往生際が悪かった。頭の中で肉、肉、と連呼しだす。再びニクニクゼミの大合唱。


「(ああ、うるさい! そんなに肉が食べたいなら、他の家の子になりなさい!)」

「(オカンかよ)」

「(あ。逢原さんだ)」

「(無視すんな!)」


 スルーして、車道の向こう側を見る。ビュンビュン車が走る六つの車線を挟んだ、反対側の歩道。そこには逢原さんの姿があった。

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