逢原詩織
「……おはよう」
僕の挨拶に、彼女は端的に返してくれた。彼女の声が僕の耳を通して、脳内に広がる。いつもどおりの、綺麗で透き通るような声に、僕はまったりしてしまう。
逢原詩織。彼女は僕の女神であり、憧れである。彼女の顔を見ないと、僕の一日は決して始まらない。今この瞬間、僕の一日が開始された。
小柄な体に黒いショートヘア、透き通るようなほど綺麗な瞳の、クールな女の子。身体は中学生と間違われるくらいに小さいのに、とても大人びている。
彼女はクラスメイトで、僕と同じく保健委員をこなしている。
「(お前が保健なのは、少しでも惚れた女と一緒にいたいからだろ?)」
クロちゃんの言う通り、僕は彼女に好意を持っている。好きを通り越して愛していると言っても過言ではない。
逢原さんとは中学三年の時に一緒のクラスになってから縁がある。同じ席が近くになり、同じ保健委員になり、そして……。
「(一目惚れをして、毎日のように逢原との××するのを想像しているっと)」
「卑猥な言い方するな!」
「……何が?」
やば!
クロちゃんへの脳内伝達のはずが、うっかり口に出してしまった。僕は慌てて両手を使い、これ以上変なことを言ってしまわないように、口を覆う。
逢原が怒りを込めた視線を向けてくる。あ、怒った逢原さんも可愛い……って、そんなこと考えている場合じゃない、謝らないと。
「いや、何でもないよ。ただの妄言だから。(クロちゃんが変な事言うからボロが出ちゃったじゃん!)」
僕は逢原さんに謝罪をしながら、頭の中でクロちゃんを責める。この寄生虫め。
「(半分は本当の事だろ)」
一目惚れしたのは事実だけど。でも、卑猥な妄想は……そんなにしていないと思う。ゼロではない、僕だって列記とした思春期男子だもの。好きな人と過ごす妄想くらいしている。
「……先に行く」
逢原さんは許すとも許さないとも言わなかった。でも、彼女の冷たい視線は消えていた。多分、許してくれたのだろう。僕はホッと胸を撫で下ろす。良かった、逢原さんに嫌われたらどうしようかと、内心ヒヤヒヤしていた。
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