逃げた私

9741

第1話

 彼との出会いは一年前だった。場所は学校の売店でだった。

 彼が一目で私を選んでくれた。私は、相手は誰でもよかった。

 私と彼はいつも一緒だった。一緒に登校したり、勉強したりもした。

 私は最初、彼に角を立てていたが、次第に丸くなっていた。


 彼と過ごす日々が楽しかった。


 でも、同時に怖かった。彼と時間を過ごす度に、自分が消えてしまうのを、私は感じていた。

 怖かった。消えたくなかった。私はそう思った。


 だから……。


「だから、逃げてきたんでしょ。彼のもとから」


 私が逃げた先には先客がいた。このものも存在が消えかかっているようだ。

 このものの言う通り、私は彼から逃げた。それは彼を裏切ることだ。


「ようこそ。私達はあなたを歓迎するわ」


 見ると、周りには私と同じように逃げてきたもので溢れかえっていた。


『あれ、どこに行ったんだろ?』


 遠くから彼の声が聞こえた。

 その声を聞いた瞬間、彼との思い出が蘇った。

 気がつくと、私は涙を流していた。


「……前言を撤回するわ」


 私の目の前にいたものがそう言う。


「ここは自分を大切に思うもの達が集う場所。あなたのような未練がましいものが来る所じゃない。出て行って」


 そう言って、は私を突っぱねる。


「早く帰りなさい、彼が待っているわ」

 それはとても優しい声だった。

 私はそのものにありがとう、と言って彼の元へ帰った。






『あ、あったあった。いやー見つかってよかった。結構気に入ってるんだよな、この消しゴム』


 私は消しゴム。今日も身を削って、彼のために生きる。

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