餅は餅屋

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餅は餅屋

 前方に魔王軍の兵士達が徒党を組んで、この国に攻め入ろうとしていた。


「敵はざっと見て1000体……1人あたり333体がノルマね」

「1匹余るな……アイツがいれば1人200でキリがいいんだけどな」

「250よ、バカね」


 計算のできない格闘家ザックに、魔法使いマリカが呆れる。


「いない奴のことなんて言わないの」


 私は二人にそう言う。

 そうだ。ここには彼はいない。

 私達と共に戦い、共に励み、共に世界を守ってきた彼は、もうこの世界にはいない。






「それじゃあ、今までありがとう……そして、さようなら」


 私は彼に感謝の気持ちと別れの言葉を伝える。


「なあ……やっぱり、俺も残って――」

「ダメよ」


 私は彼が言い終わる前に、彼の言葉を遮った。


「分かっているでしょ。次にゲートが開くのはいつか分からない。この機会を逃したら、あなたは元の世界に戻れなくなるかもしれないのよ」

「でもよ、もうすぐ魔王軍が大群でやってくるんだろ?」


 確かに、今は魔王軍との戦いの真っ最中。彼がいなくなるのは痛手だ。

 でも彼を引き止めることはできない、許されない。

 彼は元々、偶然でこの世界に迷い込んできてしまっただけだ。元の世界に帰れるのなら、見送ってあげるのが、彼のためだ。


「それはこの世界の住人である私達の問題よ。あなたには関係ないわ。……あなたの世界の言葉にあるでしょ、『餅は餅屋』って。この世界のことは私達に任せなさい」


 彼は納得いかないような顔をしている。

 私だって、本音を言えば彼には帰ってほしくいない。

 でも、彼には彼の生活がある。


「っ! ゲートが閉じるわ!!」


 マリカが叫ぶ。光のゲートが消えかかっていた。もう時間がない。


「早く! もう時間が無いわ!」

「で、でも……」

「あーもう、じれってぇ! おらぁっ!」


 ザックが彼の背中を蹴り飛ばし、彼を無理やりゲートに押し込んだ。

 彼はゲートに吸い込まれ、やがて姿が見えなくなった。おそらく、自分の世界に戻ったのだろう。

 そして役目を終えたゲートは、静かに消滅した。


「ちと強引だったかな」

「いいえ、ナイスよザック。あなたの判断は間違っていないわ」


 マリカがザックの肩をポンっと叩く。


「行きましょう。魔王軍が攻めてくるわ」


 私は歩き出す。二人も私の後について来た。






「でもやっぱ、いなくなると寂しいよな……」


 ザックがため息をつく。マリカもそれにつられてため息。


「寂しがっている暇は無いわ……行くわよ!」


 私達は敵軍勢に向かって走り出した。

 魔王軍も私達を敵と認識して襲い掛かってきた。

 私は剣、ザックは拳、マリカは魔術を駆使して、魔王軍に攻撃する。

 敵をなぎ払い、粉砕し、消滅させる。


 でもやはり多勢に無勢。私達は徐々に消耗していった。


「はぁはぁ……」


 力自慢のザックでさえ、息が上がっている。マリカの方も、魔法の威力が下がっている気がした。

 かく言う私も、手が痺れてきて今にも剣を離してしまいそうだった。

 でも、私達は負けられない。

 私達は彼と約束した。この世界は私達に任せなさい、と。

 だから私達は負けるわけにはいかない。


「くっ!!」


 だけど、現実はそう上手くいかない。

 私は魔族の攻撃を受けて、剣を離してしまった。

 丸腰になった私を、魔王軍がほっとくはずがない。


『ギャォオオオオ!』


 魔族がその鋭い牙を立てて、私を噛み砕こうと迫ってきた。


「く、ここまでか」


 私はそう思った。


 その時だった。


「エクス……カリバーぁああ!!」


 光の斬撃が、魔族をなぎ払った。

 私は、今の攻撃に見覚えがある。


「俺の世界には、こんな言葉がある……」


 私達は、この声に聞き覚えがある。


「『ヒーローは、遅れてやってくる』ってな!」


 彼だ。 ゲートを通ったはずの彼が、この世界にいる。

 元の世界に帰ったはずの彼が、魔王軍と戦っている。


「よお、お前ら! なんだ随分とへばってんな。やっぱり、この俺がいないとダメダメだな」


 魔族を切り裂きながら、彼は笑う。

 私は剣を広い、彼の背中に自分の背中を預ける。


「あなた……どうして戻ってきたの!」


 魔族をなぎ払いながら、彼に尋ねる。


「俺の実家じゃ、餅は自分達で作って食べる決まりになってんだよ。俺にも餅、つかせろ」

「……バカものが」


 私はそう言うが、彼が戻ってきてくれたことを内心で嬉しく思っていた。ザックもマリカも同じだろう。


「さあ、お前ら! こっからは四人で餅つき大会だ!!」

「「おう!」」

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