ヒト、燃える

福永 護

炎上措置について

 「炎上措置」なんていう奇っ怪な法案が成立したのは自分が生まれる少し前のことだった。今となっては当たり前のことなのだがそれまでの社会と言うのは頭のおかしい人間が場をわきまえずに他人の迷惑を垣間見ない世界だったらしい。いつしかのオリンピックだったかワールドカップのタイミングで施行されたそれはポイントが一定数を超えたらその三日後の0時に体の一部が燃えたように炭化するといったものだった。これが指だったら良いが足や目、臓器を失った物も居ると聞く。恐ろしい話だ。


 だがそのお陰で言わいる『こども』の迷惑事件は圧倒的に減った。これはテレビやインターネットに露出している有名人に炎上措置が施されたためだろう。これが施工され、炎上ポイントが一定を超えると『炎上通知書』というものが送られてくる。その日のから三日以内に電話ででも応答し、その月の講習を受ければ炎上は免除される。応答が無かった場合三日後の0時、応答しても講習を受けなかった場合はその翌日の0時に当人の体は燃え上がる。これを信じようとしなかった有名人が度胸試しにポイントを稼ぎ通知書を受けた。そしてカメラの前に立ったのだ。



 そして彼らはもれなく燃え上がった。



 その日までに医療機関との関係も無く彼らに何かを植え付けたような跡も無かった。これで命を落とすものも少なくない。その場合警察の臨場が済んだ後専門の機関が入る。通称「炎上委員会」である。委員は遺体を回収、処理するだけでなく身寄りの無い場合遺品の整理まで行う。炎上措置による死者は家族のもとに変えることも許されないのだ。


 炎上ポイントの算出方法は公表されていないが、過去から騒がれている迷惑行為がこれに当たることは有名な話だ。コンビニの商品に傷を入れてみたり文化財を損傷させる。さらには軽犯罪もこれに入る。少年院や刑務所に入ったものは出所後もこのポイントに上乗せ分が発生する。お陰でこの国の再犯率は下がったものの死亡率は若干上がった。この事がどういう意味を持つか、これを読んでいる人ならば察するものがあるだろう。


 ポイントは委員会によってカウントされている。委員は年に一度全国民を対象に行われれる適性テストの後に選ばれる。委員が何人居て、一つの街に何人居るのか。彼らは一体どうやって人を燃やしているのか。その全ては謎に包まれている。それには無理もない理由がある。


 委員会の殆どはポイントが超過した人間の中から選ばれている。適性テストは超過者を見つけるための物と言ってもいいだろう。彼らは一年の猶予期間を与えられ、社会の一員として暮らす裏でポイントの計上や炎上措置を行っている。この方法などを何処かに記載することは禁止され、それが見受けられた場合はその場で燃やされる。実際それが委員だったかどうかなんて誰にも分からない。


 この法律はこの国に三ヶ月以上滞在した場合その対象となる。とはいえ外国人がそうなった事例は無い。とはいえ身元不明の炎上措置遺体は年間数十にも及ぶと言われているのがどういう意味を示すのか、考えるのも野暮だろう。


 さて、この国の紹介の一つとして炎上措置を挙げたがこれの多くはブラックボックスとされその真実を知るものは少ない。実際立案した本人さえ委員会が今どういう状況なのか知る由もないだろう。組織の実働部隊は一年あまりで再編され、それを統括する管理部も数年おきに燃やされる。恐ろしい世の中だ。そう思うかもしれない。けれど、仕方が無いのだ。


 

 誰が読むでもない手紙のような文章になっているがこれが私の遺書のようなものになっているだろうか。そうなっていれば幸いだ。


 そして今日の0時、私は燃え上がる。

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