DV被害の女性
私はとある路地裏で占いを営んでいる。
人の運勢、前世など占っている。
だが、最近では皆どういうわけか占い目的ではなく、悩みを相談してくる。
私はカウンセラーではなく占い師なのだが……。まあ、ちゃんと代金を払ってくれるのならどっちでもかまわないか。
さて、今日のお客さんは……。
「失礼します……」
30代くらいの女性だった。なかなかの美人だったが、暗い顔をしている。
「実は私、悩んでいることがあって……」
「……失礼ですけど、生きることをやめたい、とかじゃないですよね?」
「はい?」
「いえ、なんでもないです。して、その悩みとは?」
「実は私、一緒に住んでいる彼と上手くやっていく自信がなくて……」
なるほど。恋人との不仲が悩みか。
「彼……私の作った料理がまずかったり、気に入らないことがあるとすぐに騒いだり、私に物を投げつけたりするんです」
しかもDVのおまけ付きときた。
「昼間はまだ良いんです。でも夜が問題なんです。私が静かにするように宥めても、止めてくれなくて」
私は彼女の顔や露出した肌に視線を向ける。見たところ痣などの殴られた痕は無い。
だが、彼女は酷く疲れた顔をしていた。
……というか、この話を聞いた私にどうしろと?
こういうことは警察か弁護士に相談して欲しいんだけど。
さて、こういう場合は……。
「これなんてどうでしょう?」
私は引き出しから、ある物を取り出した。
それは、1体の人形。
「いいですか? この人形を彼だと思ってください」
「え、ええ? 分かりました」
「それじゃあ……はいっ、いーち!」
私は隠し持っていたトンカチで人形を破壊した。
「な、何を!!」
うろたえる彼女を無視して、私は引き出しから更に人形を取り出す。
「はい、にー!」
そして壊す。
また人形を出す。
「はい、さーん!」
そしてまた壊す。
「よーん! ごー! ろーく! なーな!」
「もう止めてください!」
私が8体目を壊そうとすると、女性は私の手からトンカチを取り上げ、床に投げ捨てた。
「それです!」
私はドーンと彼女に向かって指差す。
「あなたは今、私が人形を破壊するのを止めました。彼を守ろうとしました。それはつまり、あなたが彼をまだ愛しているということです。確かに彼からの暴力は辛いでしょう。でもあなたの中に愛があるうちは大丈夫です。あなたの心に彼への愛があれば、辛いことも乗り越えられます」
私は話しながら、メモ帳にアドレスを書く。
「私の携帯アドレスです。もしあなたの中から愛が無くなった時は、その時はここにメールしてください。知り合いの弁護士を紹介します」
私はメモを彼女に手渡した。
「あ、ありがとうございます!」
そう言って、女性は代金を払い、私の前から立ち去った。
翌日。
彼女から添付メールが届いた。
『ありがとうございます。もう少し頑張ってみます』の文。
そして、1歳くらいの男の子が写った画像。
「……赤ちゃんからのDV、か。私には当分縁のない話ね」
私はそっと携帯を閉じた。
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