5 想いのカタチ

12 想いのカタチ1

     1


 華が絵を描くペースにはムラがある。一気に何枚も描く時もあれば、一枚をじっくり描く時もある。描かない期間が短い時もあれば長い時もある。先週の日曜に描き上げたマラソンコースの絵の後で、華は三日掛けてもう一枚描いた。今日は描かないって言うから、それなら放課後デートに行こうと誘ってみたんだ。華は笑顔で頷いてくれて、着いてからのお楽しみという事にして行き先は告げずに手を繋いで駅への道を歩く。

 学校と駅のちょうど真ん中らへんに差し掛かった所で、オレのスマホが震えた。画面に表示された相手は田所で、着信だ。

「もしもーし」

「こんにちは、秋くん。今大丈夫ですか?」

「なんですか?」

「昨日言い忘れてしまったんですが、日曜日にお嬢様が描かれた絵を本日回収しに伺おうと思っています。秋くんの大切な絵なのではないかと、一応確認しておかなければと思いましてご連絡しました」

 律儀な人なんだなって思ったら笑みが零れた。

「大丈夫ですよ。ちゃんと目に焼き付けておいたんで。欲しい絵もありましたけど買えないし、置く場所もないです」

「わかりました。お嬢様が付けたあの絵のタイトル、ご存知ですか?」

「知らないです」

「キャンバスの裏に書かれているんですよ。あの並木道の絵は『あなたがいる景色』。それでは、またご連絡します」

「あ、はい。どうも」

 電話が切れた音を聞きながら、顔が熱くなるのが止められない。華と繋いだ手とスマホを持った手、両方埋まっていて、スマホを持ってる方の腕でオレは顔を隠した。

「秋?」

 華が呼んでる声が聞こえるけど落ち着かないとダメだ。顔、見られない。

 華の手を引いて道の端っこへ寄って、マフラーが巻かれた首筋に熱い顔を埋めて隠した。

「華、好き、大好き。愛してるよ、マジで」

 ぎゅうぎゅう抱き付くオレの耳元で華が笑った気配がして、頭を撫でられた。

「秋、嬉しい?」

 これは……もしや、田所の声が聞こえてたのかな。

「聞こえてたの?」

 ふるふると首が横に振られる感触。

「なんとなく、わかる。絵の名前」

 オレは体勢を変えないままでこくこく頷いた。華の想像通りだよって、動きで伝える。

「嬉しい。ドキドキしすぎで心臓壊れそう。死んじゃうかも」

「死んだら困る」

 本気の声で返してきた華に死なないよって笑っておでこへキスを落としてから、歩き出す。これから行く所、きっと喜ぶから早く行こうって思った。

 電車に乗って移動して、程良く暗くなり始めた時間に目的地へ着いた。大きなクリスマスツリーとイルミネーション。まだ少し早いけど、もう十二月だし構わないかなって、ここにした。

「綺麗」

 呟いた華は、キラキラした顔で笑ってる。連れて来て良かった。

 しばらく眺めるかなと思って、自販機で温かいココアとコーヒーを買ってからベンチに座った。暖を取る用だから、ココアは華に握らせる。寒いしくっついていたいから、ツリーを見つめている華の肩を抱き寄せた。

「イルミネーション、あちこちでやってるから色々見たいね」

 オレの言葉に、華は大きく一つ頷いた。

 一番すごい所は車じゃないといけないから田所を味方に付けて車を出してもらおうかなって、オレは頭の中でこっそり企む。

「華は、サンタさんのプレゼント何が欲しい?」

 クリスマスプレゼントは何が良いかなって、参考にしようと思って聞いてみた。

「サンタは、いない」

 華らしい答えだ。オレは笑みを浮かべ、華のこめかみへキスをする。

「オレが華のサンタ。何が欲しい?」

 ツリーへ向けていた視線をオレに移して、華は考えてる。

「イチゴ」

 思わず噴き出した。イチゴ強すぎ。

「わかった。じゃあ、クリスマスはイチゴがたくさん乗ったケーキを食べよう」

 嬉しそうに華が笑うからオレも嬉しくなる。手作りと買うの、どっちが良いか悩むな。

「秋は何が欲しい?」

 聞かれて、オレはにっこり笑って囁いた。

「華が欲しい」

 プレゼントをもらえるのなら、オレは華が欲しい。華の全部、オレのものにしたい。よくわからないって顔で華が首を傾げてるから、オレは誤魔化す為に笑って唇で華のおでこへ触れた。

「華、大好き」

「わたしも秋が大好き」

「すげぇ嬉しい」

 冷えた鼻先擦り寄せて、暖め合うようなキスを交わす。

 クリスマス、華が喜ぶものを考えよう。華の笑顔を思い浮かべると、今からすっげぇ楽しみだ。



 ※次回の更新は10日です※

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