第二章 黒猫と描く幸福
1 願いとぬいぐるみ
1 願いとぬいぐるみ
バイトのない祝日。華との初デートで遊園地へやって来た。
今までは互いの家にいる事がほとんどで、出掛けたとしても母親が一緒だったりオレがバイトだったりでなかなか実現しなかった外出デート。やっと実現出来た!
オレが華を連れて来たのは憎たらしい顔した黒い牛のキャラクターが人気の遊園地。そこで遊ぶ時には映画のキャラクターのコスプレをするのが流行っているから、華の髪型と服装にも気合いを入れてみたんだ!
クロギュくんっていう名前の黒い牛が遊園地のメインキャラクターなんだけど、その牛が出てる映画のキャラクターを真似て華の髪は三つ編みおさげにした。園内入ってすぐの店で買ったカウボーイハットを被らせて、ジーンズに白と黄色のチェックのネルシャツにダウンベストとウェスタンブーツっていうカウガールな服装。オレは華と色違いでパートナーのキャラクターのコスプレ姿。
カウガールな華はすっげぇ可愛いし、服装だけでも気分が上がる!
華はこういう場所初めてだって言うから、まずはスムーズに楽しむ為の下準備をする事にした。服装を真似したキャラクターのアトラクションの優先入場券をゲットして、夜にやるショーの席を確保する抽選へ向かう。はずれたら観られないショーだったんだけど、華にボタンを押してもらったら当たった! 華なら当てられる気がしたんだよな。
「華はジェットコースターとか落ちる系は大丈夫?」
一通り下準備が終わってから朝一のパレードを待ちつつ次行く場所の相談。華は首を傾げてるから、乗った事がなくてわからないみたいだ。
「乗り物酔いしないなら落ちるのに並ぼうかなって思うんだけど……大丈夫?」
また首を傾げてる。
「まぁ、行ってみるか!」
華は笑顔でこくんと頷いた。
この遊園地って入った瞬間から気分が上がるんだよな。華も朝からずっとにこにこしてる。途中で買った朝飯代わりの限定フードを華の口元へ運んで半分食わせ、残りの半分は華がオレに食わせてくれた。
食い終わった所で音楽が鳴り出して、キャラクター達が歩いて来た。
「華。手、振ってごらん」
目の前にクロギュくんが来たから促してみると華はおずおず手を振ってる。クロギュくんが手を振り返してハイタッチしてくれたもんだから、キラキラ顔輝かせて喜んでた。
華が大喜びしたパレードが終わって、今度は落ちるアトラクションへ向かう。途中でイチゴ味のポップコーンを買った。容れ物がクロギュくんの映画に出てた男爵っていうジャガイモのキャラクターの顔になってて可愛いんだ。
「華かっわいいー」
ポップコーンの容れ物を華の首に掛けて、眺めて、抱き締めてからのデコチュー。コスプレ最高! 今度はお姫様のコスプレでもさせようかな。
デレデレになりながら指絡めて手を繋いだ。
「このアトラクションはね、お化けの悪戯の所為で高い所から何度も落ち続けるんだよ」
「怖い?」
「んー……映画は笑えたけどね。かなり高い所から何回か落ちるんだ。でも落ちる直前の景色がすげぇ綺麗。落ちる前に教えるから、目を開けててごらん?」
華を後ろから抱き締めながらアトラクションの説明をして、列に並ぶ。途中にあるアトラクションのセットを華はまじまじと観察してた。
落ちる系のアトラクション、華はすげぇ好きみたい。落ちる時は無言だったから大丈夫かなって心配したけど、降りた時の顔がキラキラしてた。
「楽しかった?」
聞いてみたら笑顔で頷いてる。
「今度はね、列車で移動するよ」
華の手を引いて列車乗り場へ連れて行く。列車から見える景色を指差しながら、園内にどういうアトラクションがあるのか話しながら楽しんだ。
「あそこはね、船に乗れるんだよ。乗ってみる?」
「乗る」
「じゃあ、後で行こう!」
列車から降りたらジェットコースターの優先入場券を取って、ちょっと早めのお昼ごはん。メキシコ料理を食べながらギター演奏を聞ける店。結構空いてる事が多くて穴場だったりするんだよね。華はトルティーヤ。オレはタコス。華は外食だと積極的に食べようとしないから、隣に座って食わせる。
「美味しい?」
聞けばこくこく頭が動く。
「でも秋のご飯の方が美味しい」
もう、どんだけ可愛いんだよ!
「これうちでも作れるから、今度作るね」
確かトルティーヤって簡単に作れた気がする。帰ったらスマホで調べてみよう。
昼飯の後は船で移動。綺麗な景色を眺めながらクロギュくんの映画の話をする。華は映画を知らなくて、あらすじやキャラクターについて話して聞かせたら楽しそうにしていた。
「次はね、オレらが真似してるキャラのアトラクション! バンバン的を打つんだ!」
船から降りたら最初に取った優先入場券のアトラクション。並ばずにすいすい進んで、歩きながら壁や天井に描かれてるキャラクターの名前を教えてあげる。
「オレと母親はクロギュくんシリーズが大好きでさ、DVD全作持ってるんだ。帰ったら一緒に観る?」
華はオレの説明をにこにこ楽しそうに聞いて、DVDを一緒に観る約束もした。
「華。あれがオレの服のキャラで、金髪の女の子が華だよ」
「バッチしてる」
「あのキャラはカウボーイなんだ。オレは好きなんだけど、何故かあっちのロボットの方が人気なんだよね」
「カウボーイがいい」
「オレも! レーザービームより拳銃とか馬の方が好き」
シューティングゲーム、華はあんまり得意じゃないみたいだったけどすっげぇ楽しそうにやってた。
「足疲れてない? 大丈夫?」
なるべく乗り物を使って移動少なめのコースを選んでるけど、遊園地って歩き回って疲れるんだよな。特に華はあんまり出歩かないし、キツイんじゃないかな。
「大丈夫。楽しい」
満開の笑顔の華が可愛くて、きゅうっと抱き締める。
「次はね、すぐそこ。座ってショー観るのだから足の休憩にもなるよ」
こくんて頷いた華を連れて、すぐそこの本格的なダンスと歌のショーへ向かった。
「これはね、本物のバンドが演奏してて生コーラスで、ダンスもマジですごいんだ! クロギュくんも格好良く踊るんだよ」
クリスマスの時だったらツリーがあったり音楽もクリスマス限定になったりするんだけど、残念な事に今は入れ替え時期でノーマル。でもクリスマスだとすっげぇ並んで大変なんだよな。
「華は、生のバンド演奏とか聞いた事ある?」
「ない。外出ない」
「外出るの、嫌い?」
「秋となら全部楽しい」
はにかんで笑う華。可愛い唇にキスしたくなる。でもおでこで我慢。
「これからはどこにでも連れて行ってあげる」
オレの言葉に、華は嬉しそうに笑って頷いてくれた。
ダンスのショーを観た後は車の乗り物と船を使って移動して、マジックショーを観た。
「あの魔人はランプの精なんだよ。三つ願いを叶えてくれるの」
「魔法?」
「そう、魔法。華は、三つ願いが叶うなら何をお願いする?」
「秋は?」
「オレは……子供の時は母親を楽にさせたい、お金持ちになりたい、親父に会いたいだったなぁ」
「秋のパパ?」
「うん。親父、オレが三つの時に病気で死んじゃったんだ。それに、親父にまた会えたら母親が喜ぶんじゃないかって思った」
昔の、幼い頃の願い。
「今は?」
「今は……華とずっといたい、華がいつも笑ってくれますように、母親を親父に会わせたい、かな」
「秋は、ママが好き?」
「好きだよ。良い母親」
「わたしも、秋ママ好き」
「なら一緒だ」
笑い合って、おでことおでこをぶつける。
「華のお願いは?」
もう一回聞いてみたら華は考え始める。思い付いたのか、オレを見て笑顔になった。
「叶った」
「どんなお願い?」
「寂しいの、終わりますように」
「……そっか」
にっこり笑って、軽く唇を触れ合わせた。公衆の面前なんて気にしない。バカップル万歳だから。
マジックショーの次はそこからすぐ側にあるぬいぐるみを取るゲーム。華が意外と上手くて二発目でぬいぐるみをゲット。オレも一発目でゲットして、二人でクロギュくん人形を抱えて歩いた。
イチゴのポップコーン食べながらゆっくり歩いて、優先入場券を取っておいたジェットコースターに乗る。華は絶叫系好きみたい。叫んだりはしないけど瞳が輝いてる。ここまで楽しそうにしてる華は初めて見るから、すっげぇ嬉しい。絶叫系が好きならって事で、隣にある一回転するジェットコースターにも乗った。これも静かに大興奮! その後はのんびり散歩して、クロギュくんの友達のクマが出るショーを観ながら夕飯にした。ハンバーガーの店なんだけど、少食の華はポテトとクラムチャウダー。ちょこちょこイチゴのポップコーン食ってたから、歩いててもそんなに腹が減らないみたいだ。
「華、このクマ欲しい?」
オレが口に運ぶポテトを食いながら、華はショーのクマに夢中だ。これは絶対好きだと思って聞いてみたら大きく首が縦に振られる。どんだけ気に入ったんだよって笑いながらオレは、次は隣の店に行こうと決めた。
「このクマはね、一つ一つ表情が違うんだよ。どの子がいい?」
元々、華が気に入ったらクマのぬいぐるみを買うつもりだったんだ。オレの言葉を聞いた華は真剣な顔して選んでる。可愛すぎる華の姿に、オレの頬が緩む。
「この子」
「オーケー。洋服もあるよ」
服のコーナーに連れて行くと華はちょっと悩んでから首を横に振った。ふかふかの手触りが好きだから服はいらないんだって。華は自分で買うって言ったけど、断固拒否してオレが払った。初デートの記念のプレゼント。ゲームで取ったクロギュくんは華が背負ってるリュックから顔を出させて、クマを抱き締めた華がふかふかの毛に頬ずりしてる。
「この子、秋に似てる」
「どの辺が似てる?」
オレの視線の先で、華が穏やかな笑みを浮かべてクマを撫でている。
「目が優しい」
「……そっか」
華の言葉がめちゃくちゃ嬉しくて、オレは溶け出しそうな顔で笑ってクマごと華を抱き締めた。暗いしちょっとならいいかなって、華の唇に長めのキス。舌を忍び込ませて、一瞬だけ絡めてからすぐに離れた。そろそろ我慢が限界に近かったりするけど大切にしたい。とろんとした顔になった華の手を引いて、夜のショーの場所までゆっくり歩いた。
夜のショーはキャラクター総出で盛大。花火も上がる。音楽に合わせてクロギュくん達とダンサーが踊るんだ。華はずっと釘付けになって観ていた。
「すごい楽しかった」
「また来たい?」
大きく頷いた華を見て、オレも大満足。また一緒に来ようねって約束した。
帰りの電車の中でははしゃぎ疲れた華がクマを抱いて夢の中。肩にもたれて眠る華の重みを感じながらオレも、目を閉じ微睡んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます