4 一週目 木曜日
木
四日目。自販機でイチゴ牛乳を買っていたら、後ろから来た祐介に可哀想なものを見る目をされた。オレは決して可哀想なんかじゃない!
「……ウケる」
そう言う祐介の表情は全然ウケてない。
祐介とくだらない話をしながら教室へ向かい、自分の机の上にイチゴ牛乳のパックを置いて華を待つ。友達とかクラスの奴らに挨拶しながら待っていたら華が来た。
「華! おはよう」
「……おはよう」
駆け寄るオレを、華は毎度のチラ見だ。いつかまっすぐ見て欲しいもんだけど、今はこれだけで満足しておく。スタートラインに立つ前は認識すらされてなかったんだから。
「飲む?」
自分の席へ向かう華に手の中のイチゴ牛乳を振って見せると頷きが返ってきた。昨日みたいにストローを刺して、椅子に座った華へ渡す。オレがあげたイチゴ牛乳をチューチュー飲んでる華。それを隣でしゃがんで見上げるオレ。なんだろ、この幸福感。
「イチゴ牛乳、好き?」
飲み終わったパックを受け取り聞いてみた。
「好き」
やばい。やばいやばいやばい。勝手に脳内変換出来ちゃうオレは変態か。腰が砕けそうになりながらゴミ箱へ空のパックを捨てに行った。
今回の華の絵は、ゴミ箱に落ちる潰れたイチゴ牛乳のパック。いつかその絵にオレも入れてくれないかな。
やってきたぜ弁当タイム! 華はまたバナナ。多分バナナを房で買ったのが家にあるんだろうな。
「ね、華。これは手作りじゃないよ。これなら食べられる?」
昨日バイトしながら思い付いた作戦。既製品ならいけるんじゃないか。
期待と不安を抱えたオレは、ミートボールを箸で摘まんで差し出す。華はオレとミートボールを交互に見て、少ししてから口を開けた。オレは恐る恐るミートボールを差し入れる。ぱくんと小さな口が閉じ、箸を抜いた。
た、食べた!
「美味しい?」
半端ない感動を覚えつつ、ミートボールを咀嚼している華に確認すると頷いた。なんでだろ、涙出そうになってるよ、オレ。
「あのね、このほうれん草も冷凍食品。食べる?」
ミートボールを飲み込んだ華に聞いてみるけど反応がない。箸で取って口元に運んでみると口を開けた。
なにこれマジやばい。可愛すぎてやばい!
むぐむぐ口の中のほうれん草を噛みながら、華はスケッチブックと鉛筆を持った。多分これはもういらないんだなって判断して、オレも食おうと弁当に向き直る。……これ、この箸。変な緊張がオレを襲う。童貞かよってくらいその箸に興奮して、何でもない風を装い弁当を食った。なんでか心臓がバクバクしてる。
華が昼休みに書いたのはまたオレの弁当。だけど今回は、箸に摘ままれたミートボールが仲間入り。明日は何を持ってこようかなって、心が弾んだ。
「華、帰ろ!」
ホームルームが終わったら脇目も振らずに華へ駆け寄る。祐介が忠犬かよって呟いたのが聞こえたけど無視した。華に飼われるのなら、犬でも何でも構わない。
「ね、華?」
階段を降りながら華を呼ぶ。チラッと華がオレを見た。
「華、好き」
黙殺されたけど何度でも言う。信じて。冗談とかじゃない。本気なんだ。
好き好き攻撃を仕掛けながら下駄箱まで行って靴を履き替えた。
「秋は、変」
華が呟いた。オレをチラ見した後で目をまん丸くして、まじまじと見てくる。初めてこんなに長く、華の瞳にオレが映ってる。胸が震えた。
「名前、嬉しい」
オレは、みっともなく泣いてた。名前呼ばれただけでこんな風になるなんてどうかしてる。ぐしぐしと袖で涙を拭ってるオレを、華はまだ見てる。
「秋」
「なに?」
「嬉しいのに、泣くの?」
華は、心底わからないって顔してる。オレはもう、華の声がオレを呼ぶのが堪らなく嬉しくて、泣きながら頷いた。
「嬉しすぎて、涙出る」
オレから視線を外した華は、変なのって、呟いてた。
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