—14— 操り師
「逃げ延びることができたか」
「ええ、奴らもおってくる気配はないようです。」
先程の戦場から少し離れたインファタイル帝国軍領の荒廃した町の家屋の中にアヤメ達から逃れたクレイグと青年はいた。トレアサに斬られた傷が痛むのか、クレイグは壁によりかかるようにして床に座っていた。
「クレイグ様はここで休んでいてください。私は何か使えるものがないか町の中を探してきます!」
「うむ。世話をかける」
たかが兵の一人にすぎない自分に礼を言う王に青年は深く一礼すると荒れ果てた町の中へと出かけて行った。
「多くを失い得るものがないとは。散っていた兵士に顔向けができんな」
「これはこれは、クレイグ様ひどくやられてしまったようですねぇ」
「お前か」
突如目の前に広がった闇から出てきたその男にクレイグは目だけをゆっくりと向けた。その男はインファタイルやワーブラー、ブルメリアでは見かけない極彩色の奇抜な格好をしていた。その男はクレイグの全身をじろじろと見るとにやぁっと笑った。
「その様子では星の守護者を仕留めそこなったようですねぇ」
「他に厄介な相手がいた。だが一人ならば負けはしない」
「そうですねぇ。あのような者に手こずっていてもらっては困ります。本当に脅威となるのはもう一人の守護者なのですから」
「そのようなことは聞いていない。星の守護者はあれ一人ではないのか?」
「ええ。アヤメ・・・と言いましたか。あれは星の守護者といってもまだ若く未熟。部下の命を使ってまでしたクレイグ様の敵ではないでしょう。だた、しばらくは姿を見せていませんがもう一人の星の守護者はあのような者の比ではありません」
「どれほどまでに強いのか?」
「おそらく今回あの戦に居合わせた者全ての力を持ってしても勝てるかどうか、といったところです。」
「そのような者が存在するなど馬鹿馬鹿しい。たかが一人の人間であろう」
「星の守護者は星の秩序を守るもの。秩序を乱すのは時として国であることもあるでしょう。なので本来の星の守護者の強さとは一国の戦力をも軽く凌駕します。あの娘は力の使い方もまともにわかっていない本当に未熟な存在なのです」
「仮にお前の話が真だとしてそのような相手にどう立ち向かえと言うのだ?勝ち目がないではないか」
「今回のように戦争を利用するのです。大きな力が集まるところにその守護者は必ず現れる。そして現れた星の守護者はその場にいるもの全員に牙をむくでしょう。さすれば敵も味方も星の守護者と戦わざるを得ない。敵国の力を、兵を利用するのです。そして弱った星の守護者を殺し、弱った敵国を滅ぼすのです」
「また戦争を起こせというのか。もう兵も民も疲弊しきっている」
「おやおや、弱音とはクレイグ様らしくない。南の国々を滅ぼして豊かな土地を手に入れるのではなかったのですか?そのようなことではあなたのために命を捧げ死んでいった者達が報われないではないですか」
「・・・」
「あらあら、だんまりですか」
「少しの間は国力が回復するのを待つ。行動を起こすのはそれからだ」
「さすが国のことを誰よりも思っているクレイグ様。国の王はそうでなくては!」
「用が済んだのなら我が目の前から消えろ。お前の顔と喋り方は不快だ」
「おっとっと、これは申し訳ありません。オーパーツや兵器など不足しているものがあったらお申し付けください。こちらで準備させていただきます。私も貴方様に勝利していただきたいので・・・。では私はこれで失礼させていただきます。」
その男はそう言うと現れたときと同じように闇を目の前に広げると、クレイグに頭を下げて背を向けた。ただ、クレイグは男のその仕草を見ず、体を休めるようにして目を瞑った。
「・・・ひっひっひ、そうやってこの星の者同士で潰し合え。そして私を思い切り楽しませてくださいよ。この星が堕ちるのが楽しみですねぇ」
その男は去り際に、クレイグに聞こえない声でぼそりと呟いた。そして闇の中へと消えていった。
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