—13— 勝利、そして帰還
アヤメが右から、そしてトレアサが左からクレイグを挟むように攻撃する。しかしクレイグは紫の双剣を巧みに操りそれぞれの攻撃を受け止める。砦中の兵士達を力に変換したからかそれぞれに対して片腕という状況にもかかわらず押し切られることなく耐えている。
「へぇー、それが部下を殺して得た力かい」
「・・・そうだ」
「命をささげた大将ってのがあんたみたいな奴だと死んでいった兵士達も報われないね!」
「インファタイル帝国に敵対する者を滅ぼすための礎となった」
「部下を殺して敵国の民を殺して・・・その向こうにあんたは何を見る?」
「民の豊かな暮らしだ」
「だったら別のやり方だってあっただろう!」
トレアサとクレイグの刃と言葉が何度も交差する。淡々と話すクレイグの顔をトレアサはきつい表情で睨む。クレイグと同じく多くの部下をもつトレアサにとって、部下の命を奪ってまで目的を達成しようとする彼のやり方は許せないようだった。
「もともと恵まれている者にはわかるまい。こうするしか我々に生き残る道は残されていない」
「だからってこんなことが許されるわけない!」
アヤメもトレアサと合わせるようにして刀を振るう。片方がクレイグの視界に収まっているときはもう片方が視界の外から攻撃する。長い間一緒に戦ってきた二人だからこそ可能な連携だ。クレイグは二人の挟撃を操る一対の剣で受け止め、捌いていたが流石に同時に相手をするのは厳しいのか徐々に対応が遅れるようになってきた。
「流石に鬼神と守護者を同時に相手にするのは厳しいか」
その言葉や表情は冷静ではあったが、クレイグに徐々に焦りの色が見え始めた。その焦りからくる一瞬の隙を突きアヤメが攻撃をしかける。
「そこだ!」
「むっ・・・」
そして遂にアヤメの攻撃がクレイグの体を捉えた。しかし、先程クレイグにつけられた左肩の傷が痛んだのか踏み込みが浅く決定打にはならなかった。ただ流石のクレイグもこれにはこたえたのかたまらず二人と距離を取り、胸の傷を抑えながら二人を睨んだ。
「勝負あったな」
体勢が立て直さる前にとトレアサとアヤメがクレイグに左右から畳みかけるように斬りかかった。傷により躱すことができなかったクレイグは左に残していた剣でアヤメの攻撃を受け止める。しかし右手の剣は胸の傷を抑える際に消してしまったためトレアサの攻撃を受け止めることができなかった。トレアサによって振り下ろされた巨大な戦斧の刃がクレイグの頭へと向かっていく。クレイグもこれまでかと諦めて静かに目を瞑った。
だが戦斧はクレイグの頭に届くことはなく、鈍い音を立てて止まった。
「そうはさせん!」
クレイグが目を開けると、そこにはどこからか駆けつけてきた一人の若者がトレアサの戦斧を受け止める姿があった。
「クレイグ様!御無事ですか!?」
その青年は戦斧を受け止めながらも自国の王を気遣った。しかし、トレアサの重たい攻撃に押し負け、剣で受け止めながらも片膝をつく。
「・・・なぜここにいる?他の部隊には撤退しろと命じたはずだ」
「申し訳ありません!ただクレイグ様の身が心配で・・・」
「そのようなものは無用だ」
「ここは私が引き受けます!クレイグ様はお引きください!」
トレアサは急に飛び出してきたその青年に少しの間に気を取られていたが、敵国の兵だと認識すると突き飛ばした後に戦斧を振りかぶった。
「あんたに恨みはないが、死んでもらう!」
「ぐっ・・・」
トレアサが戦斧を振り下ろした直後、鮮血が飛び散った。しかし、その青年は無傷だった。
「お前・・・」
「クレイグ様!」
力を振り絞ってアヤメの刀を打ち払ったクレイグがその青年を突き飛ばし、トレアサの戦斧を代わりに受けた。
「そのような顔をするな。ただのかすり傷だ」
そうは言いつつもクレイグの足元には多くの血が流れ落ちていた。
「私のせいで・・・申し訳ありません・・・」
心配する青年をよそにクレイグはトレアサを目で牽制した。
「流石にここまでのようだ。今回は引かせてもらう」
そしてクレイグはそう言うと転移のオーパーツを使用した。オーパーツから放たれた光がクレイグと青年包む
「待て!」
逃がすまいと咄嗟にアヤメが光に対して斬りかかる。しかし遅かったのかアヤメの刀は空を斬った。
「トレアサ!急いで追おう!そう遠くには転移できないはずだ!」
「アヤメ、もういい。しばらくは何もできないだろう」
トレアサはアヤメにそう言うと何かを考えているように複雑な表情をしていた。
「シンクレア!デリス達の様子はどうだ?」
少し離れた位置でデリス達の救護をしていたシンクレアにトレアサが呼びかけた。
「うむ。皆気を失ってはおるが傷は大したことはない」
「そうか、よかった。私は一足先に皆の所へ戻る。ここは任せた!」
残してきた仲間が心配だったのかトレアサは急いで戻っていった。残ったシンクレアは周囲を警戒しつつも皆の回復に努めた。
「アヤメ、お主肩を怪我しておったろう。回復の魔法をかけてやる」
そういうとシンクレアがアヤメの方へ近づいていき、傷を確認した。
「む、これは・・・」
シンクレアがアヤメの衣類を脱がして見てみると既に傷が塞がりかけていた。
「何度かお主が怪我をしたところを見てきたが、相変わらずすごい回復力じゃのう」
「ははは・・・」
その異常な回復力をアヤメは笑ってはぐらかしたが、シンクレアも不思議がるものの特に深く追及はしなかった。
しばらくするとデリス、カデル、イゾルテの意識が戻った。
「うーん・・・いたた・・・」
「つっっ!トレアサの奴思い切りぶつけやがって・・・」
「ぎょふ?」
「皆、無事か?」
「あれ・・・?どうしてここにシンクレアさんがいるんですの?」
「お前たちが心配だというトレアサに引っ張られて来たのじゃ。奴はもう戻ったがな」
「おい、クレイグはどうした?」
「すまない・・・、私とトレアサであと少しのところまでは追い詰めたのだが逃げられてしまった」
「そうか」
「すっごーい!さすがアヤメちゃんとトレアサですのー!」
「ぎょふー!」
「私は奴相手に何もできなかった・・・トレアサが助けてくれなかったら死んでいたかもしれない」
「ふむ。本当に危ないとこじゃった。お前達は弱いくせに無茶をするからのう」
「ぶー!そんなことないですのー!」
「っけ、お前やトレアサが異常なんだよ」
「それだけ減らず口を叩ければもう歩けるじゃろ。いつまでもこんなところにいるわけにはいかないから早く帰るぞ」
「今回はとっても疲れましたの・・・。ゾルちゃん、帰ったら一緒にお風呂に入るですのー」
「ぎょふー♪」
「さっきまであんな目にあってたのに元気な奴らだ」
「いいじゃないか、デリスらしくて」
体調が回復した一同はクレイグの砦を後にした。アヤメ達がトレアサの部隊に合流する頃にはインファタイル帝国軍は完全に引き上げており、トレアサ達もワーブラー王国軍に戦争の後処理を任せてドロヘダに帰還する準備をしていたところだった。こうしてクレイグは逃したものの、トレアサやアヤメ達アガートラムの活躍により今回のインファイタイル帝国軍の侵略を防ぐことができた。
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