—11— 敵陣の奥深くで
トレアサの救援に勢いづいた前線の兵士達はそのまま敵の拠点を制圧しつつ進んでいった。先程までひたすら攻撃を仕掛けてきたインファタイル軍もさすがに後退し始める。
徐々に戦争が終わりに向かっている中、アヤメ、カデル、デリス、イゾルテはインファタイル軍を率いているクレイグが構えている敵本陣目前に迫っていた。
「敵さんの本陣もあと少しみてーだな!」
「ああ、ギルドの皆のためにもこの戦いを早く終わらせるぞ!」
「おー!ですのー!」
アヤメ達は本陣に敵兵を通すまいと後退しながら攻撃してくるインファイタイル軍の兵士を徐々に押し込んでいく。イゾルテが炎で威嚇して怯んだところにカデルが突撃して敵兵を蹴散らす。そしてアヤメとデリスがカデルの後ろを守るようにして戦う。ずっと一緒に戦ってきた仲間だからこそできる連携であった。
「楽勝ですのー!」
「おい、油断すると危ねーぞ!」
あまりにもあっけなく倒せるためか、カデルを援護していたデリスも次第に敵の中へ突っ込んでいった。
「もう、カデルったら心配しすぎですのー。・・・きゃっ」
デリスが勢いに乗って眼前の敵を鞭で吹き飛ばした際、その後ろで構えていた複数の敵兵が一斉にデリスに飛び掛かるようにして襲ってきた。飛び掛かってきた三人のうち二人までは自前の鞭で迎撃したが、二人目が崩れ落ちる際に打ち込んだ鞭を掴まれ体勢を崩してしまった。体勢を立て直しながら敵に掴まれた鞭を引き剥がそうとしたが、意識を失ってもなおしっかりと敵の手が鞭を握っておりなかなか手から外すことができない。いくらデリスが傭兵としての実力を持っていようと若い彼女の腕力はそこまで突出しているわけではない。その限られた腕力で必死に鞭を外そうと引っ張っていると、そこへデリスの凄まじい鞭捌きに怯んでいた三人目がここぞとばかりに剣を振りかぶってきた。
「っち、だから言っただろうがっ!くそっ!」
心配してデリスの動きを視界の片隅においていたカデルだが、倒しても次から次へと向かってくる敵兵に邪魔され助けに行くことができない。イゾルテもこれ以上デリスの方へ敵が来ないように炎を吐いて威嚇するが、彼女の元へはなかなか近づけずにいた。
そうこうしているに剣を振りつつ敵兵が徐々にデリスを追い詰めていく。武器を封じられ周囲に敵が大勢いる中デリスにはどうすることもできない。そして遂にデリスを完全に捉えた敵兵は、大きく剣を振りかぶった。それを見たデリスはせめてもと顔の前で両腕を交差させてぎゅっと目を瞑った。そして、今度こそ仕留めんとその凶刃をデリス目がけて力いっぱい振り下ろされた。
「・・・っ!・・・・・・あれ?」
少し経っても斬られた感覚を感じなかったデリスはそっと目を開けて腕の隙間から目の前の様子を伺った。すると、そこにはデリスに対して振り下ろされた剣を刀で受け止め、押し返そうとしているアヤメの姿があった。
「デリス、無事か!?」
「アヤメちゃんっ!」
もう駄目かと思っていたデリスは目尻に涙を溜めながら自分を助けに来てくれた仲間の名前を呼んだ。アヤメはカデルやイゾルテよりも離れた位置で戦っていた。しかしどういう訳か一瞬で超加速し周囲の敵を斬り倒しながらデリスの元へ駆けつけたようだった。鍔迫り合いを制して相手の胸を甲冑事ごと刀で貫き周囲の敵に睨みを効かせて牽制すると、デリスの鞭を敵の手から取り上げ彼女へと渡した。デリスの手を引いて立たせたアヤメの体はうっすらと赤い光を纏っていた。
「アヤメちゃん、本当にありがとうですの!でも・・・その力は・・・」
アヤメのその姿を見てデリスは辛そうな表情をした。
「そんな顔をするなデリス。私なら大丈夫だから・・・。それに、大切な親友を失うわけにはいからないからな」
「ごめんね、アヤメちゃん・・・」
アヤメが大丈夫だと言ってもデリスはずっと申し訳なそうな顔をしていた。アヤメはそんなデリスの頭をくしゃっと撫でてやると微笑んで見せた。
「さあ、クレイグのいる本陣はもうすぐそこだ。もう少しだけ頑張れるか?」
「はいですのっ!」
少し遅れてなんとか敵を退けながらカデルとイゾルテがやってきた。イゾルテはよほど心配だったのかデリスの顔を見た瞬間に彼女の胸へと飛び込み、顔をうずめながら切なそうに鳴いた。
「ったく!あれほど油断すんなっつっただろうが!何回同じような目に遭えば学習すんだよこのウスノロ!」
「本当にごめんなさいですの・・・。カデルもゾルちゃんも心配かけてごめんなさいですの・・・。」
「まあまあカデルも皆無事だったんだからいいじゃないか」
「おい、イゾルテ!今度はこいつが暴走しないようにしっかりと見張ってろよ!」
「ぎょふっ!」
「ふふ、これではどちらが主人かわからないな」
アヤメがそう言うとカデルも同意するかのように笑った。
「もう、ゾルちゃんも皆もひどいですのー!」
落ち込んでいたデリスも皆の空気で元気が出たようだった。
「さてと・・・、あそこがクレイグの野郎がいるところか」
少し遠くの丘の上に見える急設された砦を見てカデルがそう言った。
「ああ。そうだな・・・。ここからは辛い戦いになる。」
そういうとアヤメは目を閉じて力を込めると先程と同様に赤い光を身にまとった。
「お前、その力・・・」
「いつまでも過去に囚われている訳にはいかないからな。母様を護ることはできなかったこの力だが・・・大切な仲間は必ず護り抜いてみせる」
「なあ、お前の母親はお前よりも強かったんだろ?」
「ああ、母様は誰よりも強かった。この私よりもトレアサよりも」
「そんな人を殺れる程の相手ってどんな奴なんだ?」
「・・・・・・」
アヤメはカデルの問いに答えず、ただただ刀身の先端を見つめていた。
「・・・すまない、その話はまた今度にしよう。今は一刻も早くこの戦争を終わらせなければ」
「・・・そうだな。」
未だに戦場に木霊する金属の衝突音、砲撃音、悲鳴・・・、それらを止めるためにアヤメ達はクレイグのいる丘の上の砦を目指して駆けていった。
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