—10— 大地を穿つ大戦斧

「はぁ・・・はぁ・・・。ねぇ、インファタイルの連中しつこいわね・・・!」


「えぇ、確かに・・・。まるで何かに取り憑かれたかのようですね」


 ここは先程トレアサやロイドがいたところより少し前方の戦場であり、アガートラムの若手部隊とインファタイル軍が交戦していた。


「あいつらも不気味だが、もっと不気味なのはあのオーパーツだ。あんな禍々しいものなんてあまり見たことがねぇぞ」


「そうですね・・・。どうも嫌な感じがします・・・」


 アガートラムに所属する若手達はいつもと少し雰囲気の違う戦いに僅かな戸惑いとやりづらさを見せていた。というのも未知のオーパーツの攻撃に慎重に対応しつつ、先程からかなりの数のインファタイル軍をアガートラムとワーブラーの連合部隊が撃破しているにも関わらず相手が一向に撤退する気配を見せない。


 既にかなりの戦力を消耗しており当初実行しようとしていた戦略は失敗している。この状態であれば戦いを続けても勝てる見込みはほぼ無いため無駄な消耗をさけ、手を打ち直すためにも撤退するべきである。しかし、目の前の敵兵達は部隊長がやられても、仲間がどんどん倒れていっても同様せずにひたすら攻撃を続けてくる。


 そのような状態のためこの場にいるアガートラムの若手達は攻撃に対応しつつもその動きは精彩に欠いていた。


「しかし、我々はここでインファタイル軍を食い止めるしかありません!ユリア、アクセル!引き続き敵の動きに注意しながら対応してください!」


「うっす!」


「りょーかい!」


 カデルやデリス、アヤメには劣るが、彼らも最強のギルドアガートラムの一員なだけあって、皆で協力し合いながらインファタイル軍の進行を食い止めていた。


 引き続きインファタイル軍の進行を防いでいると、不意に敵の方で何かの号令が聞こえた。すると、インファタイル軍の兵士が一斉に突撃してきた。


「ちょっ、ちょっと!一体なんだってのさ!」


「私にもわかりません!」


 突撃してきたとは言っても文字通りがむしゃらにこちら側に向かって突っ込んできているだけであったため、多少押されながらもなんとか対応する。どのような号令がかかったのかはわからなかったが、インファタイル軍の兵士達は無謀にこちら側に突撃を続け死傷者を急激に増やしていているところを見ると決して良い号令であるとは言えなかった。


「お、・・・おい!あれを見ろ!」


 そのとき、アクセルがリアムとユリアに向かって叫んだ。敵兵に押し込まれながらもアクセルの指さした方を見ると、この戦で見た巨大なオーパーツによる砲撃の準備が行われていた。しかし、それは今までの砲撃と決定的に違ったことがあった。


 砲撃の照準がアクセル達の方を向いていたのだ。


「馬鹿な!?インファタイル軍は何を考えているのですが!ここには味方の兵士も多くいるんですよ!?」


「嘘でしょ!?冗談じゃないわよ!」


 今までインファタイル軍は何度も砲撃をこちら側に撃ってきていた。しかし、それはこちら側の部隊に大打撃を与えるためにはるか後方の本体を狙ってのことだった。そのため、こちら側としても魔法障壁による対策を取ることができた。


 しかし、ここは敵味方が入り乱れて戦っている最前線である。このような混沌とした場には魔法障壁を展開することが難しい。魔法障壁は味方を守るための防壁ではあるが、それ自体はかなりの力を持っているため触れたりすると怪我程度では済まない。そのため、このような場所に展開することは味方にも損害を与えるため展開が難しいのである。


 しかし、それは相手方も同じはず。このような場所に対して砲撃を行っては多くの同胞も巻き込んでしまうことになる。しかし、現にオーパーツの砲身はこちらを向いていた。アガートラムの傭兵及びワーブラー王国軍の兵士には動揺が広がっていた。しかし、同じ場にいるインファタイル軍の兵士は砲身がこちらを向いているにも関わらず平然としていた。


「こいつら心中するつもりかよ!」


「まずいです!皆さん、ここからすぐに離れてください!」


「離れろったってこいつらどうするのよ!」


 リアムはその場にいた他の仲間達に離れるように指示したが、敵兵が押し寄せてくるためその対処に追われて逃げることができなかった。そうしているうちに砲身の中の光が大きくなり始め、それがアガートラムのワーブラーの兵士達の目を引きつける。


「どうしようもできねえのかよ!」


 アクセルがそう叫んだ直後、砲身から特大の光の砲弾が放たれた。何人かは放心してただそれを見つめ、何人かは目を瞑って顔を背けた。そして周囲を轟音と激しい衝撃が襲った。





 轟音と激しい衝撃の後、あたりは静寂に包まれていた。そして、その静寂の中ひとりの女性が声を発した。


「・・・あれ?あたし、生きてる?」


 少し間を置いてユリアが恐る恐る目を開けると、そこには五体満足な自らの体があった。


「なんだ?何が起こったんだ?」


 アクセルも一体何が起こったのかわからないようだった。ユリアとアクセルは自分が生きているかを確かめるために身体を動かしたり叩いたりしてみた。すると横からリアムの声がした。


「二人共、あそこです!」


 二人がリアムの視線を追うと、そこには巨大な戦斧を正面に構えた紅の鎧を纏った女性がいた。その女性はまだ完全には消えない砲弾の力を受け止め、押し返そうとしていた。


「団長!」


「姉さん!」


 その女性が自らのギルドの団長だとわかったユリアとアクセルは揃って声を上げた。トレアサは砲弾の力を踏ん張り耐えていたが、やがて一括するとそれをあさっての方向へ弾き飛ばした。


「魔法部隊が障壁を展開してやっと防いだ砲撃をたった一人で止めてしまうなんて・・・」


 いつもは冷静なリアムもトレアサの常人離れした行動に言葉を失っていた。


「・・・間に合ったか。お前達!無事か!?」


 砲弾を防いだトレアサは大切な家族であるギルドの団員達の方に振り返ってその身を心配した。


「ああ、姉さんのおかげでなんとかな!」


「さっすが団長!愛してるっ!」


「そうか、よかった・・・」


 トレアサは団員達の無事な姿を確認すると、ほっと胸を撫で下ろした。トレアサの登場にアガートラムとワーブラー王国軍の面々が一斉に沸く中、先程までがむしゃらに突撃してきたインファタイル軍の兵士達は信じられないといった表情でトレアサの方を見つめて停止していた。するとそのトレアサが大戦斧を構え、刃の部分に気の力を溜め始めた。そして掛け声と共にトレアサが大戦斧を振り抜くと、オーパーツの砲台とその周辺にいたインファタイル軍の兵士達が衝撃で消し飛び巨大な半円柱状の溝が残った。


 トレアサの大地を穿つほどの凄まじい一撃を前に、今度ばかりはアガートラムとワーブラー王国軍の面々もぽかんと口を空けて停止した。


「ふぅ・・・。久しぶりに力を出すと疲れるな。」


 大戦斧を持ったまま腕をぐるぐると回すとトレアサがそう言った。


「さて、皆!敵が怯んでいる今が好機だ!一気に敵を制圧するぞ!」


 すると、今まで放心していたアガートラムの傭兵とワーブラー王国軍の兵士達はトレアサの掛け声に呼応し、先陣を切っていくトレアサに一斉に続いていった。

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