—09— 鬼神トレアサ
アヤメ達がひたすら敵陣の中を突き進むその頃、トレアサはインファタイル帝国軍の進行を食い止めていた。ブルメリア王国とワーブラー王国を含むグラス大陸中のギルドでも屈指の強さを誇るアガートラム。綿密に組まれた集団魔法戦術及び弓術と鍛え抜かれた近接格闘術は少数ながらも強力な古代兵器オーパーツを駆使するインファタイル帝国の大軍とも互角の戦いを繰り広げていた。
個々の力もそうだが、信頼する仲間との連携技術、ギルドマスターであるトレアサの指揮、そのどれもがアガートラムの強さを支える大切な要素であり、国の軍隊さえも時には圧倒する強さの秘訣だった。
しかし、アガートラムが最強のギルドとも呼ばれている本当の理由・・・それは別の所にあった。
「くっ・・・敵はまだ撤退しないのか!?」
トレアサは焦りを感じていた。ワーブラー王国軍と協力しインファタイル帝国軍にはかなりの損害を与えた。しかし、敵は一向に撤退する気配を見せない。相手はかなり消耗しているはずだが、一向に撤退する気配の見せない敵相手に仲間達もかなり消耗していた。
「インファタイル帝国はその大地のほとんどが一年中氷に包まれる極寒の地。奴らも豊かな土地欲しさに死に物狂いなのでしょう」
トレアサの横にいたロイドがそう告げた。
「このまま戦っても互いに消耗するだけだと言うのに・・・」
こちらが優勢なことには変わりないが、それでもトレアサの目の前では一人、また一人と味方の兵が負傷していく。その中にはアガートラムの仲間もおり、何よりギルドの仲間を大切にするトレアサにとっては心が痛かった。
「しっかし、ただでさえオーパーツが鬱陶しいのに執念深い敵さんときた。突っ込んでいったアヤメ達は大丈夫ですかね?」
ロイドの問いかけに答えずにトレアサは顎に手を当てて難しい顔をしていた。眉間に皺が寄ってしまい、せっかくの美しい顔が台無しであったが、その表情は何かを考えているのか、それとも後悔しているのか。トレアサは眉間の皺を無くすと同時にロイドの方へ向き直った。
「相手がここまでというのは予想外だった。ロイド、軍の指揮は任せるぞ!」
「おや、どうしたんですかい?」
「私も出てカタを付ける。これ以上は仲間が危険だ」
「ついに鬼神様の出番って訳ですか。団長も出し惜しみせずに初めから力を使えばいいものを。本気になったあなたならこれくらいの相手はどうってことないでしょう?」
確かにロイドが言っていることはもっともである。初めからトレアサが本気で戦っていれば味方の損害はここまで大きくなかったかもしれない。しかし、トレアサには考えがあったようだ。
「私がいる間はそれでいいかもしれない。だが、私がいなくなったときにこの子達はどうする?こんな戦争が絶えない世の中でもこの子達が生きていけるようにしてやるのが私の役目さ。・・・ただ今回の相手は少しおかしい。これ以上この子達に任せておくのは危険だ」
「なるほど。承知いたしやした!ここはあっしに任せて団長は思う存分戦ってきてください」
「すまん、頼んだ」
トレアサはそう告げると背中に背負う巨大な戦斧に手をかけると敵に向かって走っていた。
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