—08— 仲間

 アヤメとカデル、デリスとイゾルテはインファタイル帝国軍の中を疾走と駆けていった。数で圧倒する帝国軍兵士達はたったの三人(と一匹)に相当手を焼いていた。マーシナリーLv.9相当というのは伊達ではなく、それぞれが数で勝るオーパーツで武装した帝国軍兵士達に強さで圧倒していた。


 カデルはその俊敏さを活かして疾風の如く敵の合間を駆け抜けながら拳打や足蹴を放っていた。その速さの前には重装備も高火力のオーパーツも無意味なものであった。


 カデルの戦闘の型は武器を持たずに己の肉体のみで戦う近接格闘術。彼は武器も持たずに防具も最低限のものしか身に着けていない。だがそれと引き替えに他者を寄せ付けないほどの俊敏さを手に入れていた。


 一人の兵士がカデル目がけてブロードソードを振り下ろそうとする。


「おせえっ!」


しかし、カデルは兵士が剣を上に振りかぶったところでその両腕を掴んで振り下ろせないようにすると共に顔面に飛び膝蹴りを浴びせた。カデルの体重が乗った一撃に兜の顔を覆う部分がひしゃげる。


「まだまだっ!」


 更に彼はその兵士の胸を借りて跳躍して宙返りをすると別の兵士の正面に着地した。急に自分の前に現れた敵に一瞬の気の迷いが生じる。その間にカデルは渾身の後ろ回し蹴りを叩き込む。その蹴りを食らった兵士は周囲の兵士を巻き込みつつ吹き飛んでいく。


「っち、やりがいがねえ」


 一方デリスとイゾルテもカデルに全く引けを取っていなかった。デリスは腰に束ねて着けていた鞭を外すと、それを巧みに操り始めた。細部まで彼女の意図を反映したかのように蠢く鞭は敵の武器を、腕を、足を絡めとり、相手の動きや攻撃を封じていた。


 しかし、鞭というのは相手の動きを封じるだけの生易しい武器では決してない。本当はとてつもない破壊力を持った恐ろしい武器である。鞭という武器は最初に振った方向と逆の方向に素早く降ることでその波が先端に伝わり、その波によって超加速した先端は音速に迫るほどの速さになる。剣や斧に比べるとかなり軽い鞭ではあるが、音速の速さを伴ったその一撃の威力は金属の鎧を大きく歪ませるほどあった。デリスは相手の動きを封じつつ、その音速の一撃で次々と帝国軍兵士を撃破していった。


 イゾルテは主人であるデリスを護るようにその死角から攻めようとする敵を威嚇して攻撃していた。イゾルテはまだ生まれたばかりの赤子であるが、竜族らしくかなりの強さを既に持っていた。


 イゾルテはその小さな肺に限界まで息を吸い込むと、前方の兵士達に向かって大きく吐いた。火竜の肺の中で高熱の気と混ざり合った空気は口から出ると同時に大きな炎と化して兵士達を襲った。金属の鎧を全身に纏っている兵士達は鉄板の内側に閉じ込められているも同然であった。炎によって高温度に到達した鎧に布越しとはいえ体が触れ激痛が襲う。兵士達は鎧の温度を少しでも下げようと地面の上を転げ回った。


 互いの背面を庇い合うように背中合わせになっているデリスとイゾルテは息がぴったりと合っていた。


「ゾルちゃん、いいかんじですの!」


「ぎょふーっ!」


 カデルも、デリスも、イゾルテも、また一人また一人と帝国軍兵士を倒していく。敵兵の中を薙ぎ倒しながら突き進んでいくその様子はまるで暴風雨のようだった。


「カデルもデリスも強いのはわかるが、・・・あまり無茶はしないでくれ。相手はどんなオーパーツを持っているかわからないんだ」


「一人で突っ込んでいったお前に言われたくねぇ」


「私一人ならどうなっても構わない・・・。でも、今は訳が違う」


 アヤメは心なしか二人と合流する前よりも勢いが無くなっているようだった。それは大切な仲間であるカデル達のことを思ってだろう。刀を振るうその表情にも戸惑いの色が現れていた。


 そんなアヤメとは対照的にカデルはその勢いを更に増加させ、敵を薙ぎ倒していく。その拳と表情にはどこか苛立ちが混じっているように思えた。


「訳なんか違わねぇだろ。お前一人だったら無茶してもいいってのか?」


「そ、それは・・・」


「もう一度その言葉を言ったらぶっ飛ばすからな」


「ごめん・・・」


「まあまあ二人共、そんなことにより今は目の前に集中ですの。そうしないとやられてしまいますのよ?」


 少しばかり殺伐とした二人の間にデリスが割って入った。彼女の持っているどこかのほほんとした雰囲気と言葉が空気を和らげた。


「デリスにそれを言われたらおしまいだな」


「ああ、そうだな」


 アヤメとカデルは互いに同調して笑い合うと、二人で歩みを揃えて敵へと向かっていった。


「もう!二人共それはどういう意味ですのー!」


 二人の後ろでデリスが頬を膨らまして怒っていた。イゾルテはそう言われても仕方がないというように残念そうな顔をして前足でデリスの肩をぽんぽんと叩き、慰めるような仕草をとった。


 アヤメは駆け出しながら顔を見られないように俯いた。そして二人に聞こえない小さな声でぼそりと呟いた。


「本当にありがとう・・・二人共」

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