—13— 大切な家族
「ねえねえフェルナ、あんな見た目だけのスケベ野郎のどこがいいの?」
フェルナが弓の手入れをしている横から、不意に気になったのかメルトがそんな質問をしてきた。
「メルトったら、あいつが聞いたら凹むわよ?あいつも普段はあんな感じだけどいいところもいっぱいあるんだよ?」
「ふーん、全然いいところ思いつかないけどねー。見た目と剣の腕くらい?」
「ちょっとメルト、流石にそれはひどいんじゃない?クラウだって他にいいところあるでしょ?」
横からラスがメルトを窘めた。
「じゃあお姉ちゃん、他にクラウのいいところ上げてよ」
「うーん、実家がお金持ち?」
「ラス、それあいつのいいところになってないから・・・」
フェルナは目頭を押さえながら苦しい感じでラスに突っ込んでいた。そんなやり取りをしていると珍しくクラウが厨房の方から出てきた。
「おーい、パン焼いてみたんだがお前ら食うか?」
「わーい、食べる食べるー!」
「クラウが料理するなんて珍しいね?」
「まあ、たまにはな。フェルナも食べるか?」
そう言うとクラウはフェルナにパンを一つ差し出した。フェルナは差し出されたそのパンを受け取って眺めると、ゆっくりと食べた。口に含んだそれは、遠い日の、フェルナの両親が毎朝焼いてくれたパンの味が微かにした。そしてフェルナの頬には自然と一筋の涙が流れた。
「しょっぱいわよ、・・・馬鹿」
「ん?そうか?そんなに塩は入れたつもりなかったんだけどな」
「・・・ありがと」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもない!まだまだねって言ったのよ!」
「へぇへぇ、厳しいことで」
「ただいまー!」
「あ、ウィルお帰りなさい!」
「よお、ウィル!ちょうど今パン焼いたんだがお前も食べるか?」
「え?クラウさんが?珍しいですね!お腹減ってたんで是非!」
「あ、クラウ!私にもう一個ちょうだい!」
「メルト、人様の魅力が全然わからないお前にこれ以上食わせるパンはねぇ!」
「・・・さっきの聞こえてたの?そんなこと言わないでよー、パンくれたらいいところ捻り出してあげるからさ!」
「お前それ褒めてねーし、むしろ傷えぐってるし!」
パンを乗せた盆をクラウはメルトから遠ざけるように両手で上に上げて持ち、メルトは必死にパンを奪おうとぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
フェルナはその光景を眺めながらあの日母親に言われた言葉を胸に噛み締め、今日も前を向いて生きていく。
--ウィル編第二章 外伝「クラウとフェルナ」 完--
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