—11— 別れ

「フェルナ、このままでは二人とも逃げられない。俺が奴らを止めて少しだけでも時間を稼ぐ。その間に逃げるんだ」


 そう言うとフェルナの父親は近くにあった木の板を持つと、引き返して貴族の私兵がいる方へと走っていった。


「お父さん!嫌だよ、私を一人にしないで!」


 先程まで父親に引きずられて体勢を崩していたフェルナは急いで立ち上がって前のめりに転びそうになりながらも父親の後を追いかけていった。


 しかし、無情にもフェルナの視界の遠くの方で母親と兵士の間に割って入って必死に木の板を振り回す父親の胸を鋼鉄の剣が貫通していく。そして体勢を崩して倒れていく父親に次々と剣が突き刺さり、父親はぴくりとも動かなくなってしまった。


 フェルナは父親がそのような姿になっても望みを捨てたくなかったのか、父親の元までかけていった。


「お父さん!お父さん!お父さん!お父さん!」


「フェルナ!逃げてって行ったでしょ!なんで戻ってきたの!!」


 皮肉にもフェルナが両親を想う気持ちが、両親を望みを裏切ってしまうこととなった。


「なんだ?こいつのガキか?」


「おい、結構この親子美人じゃねえか?犯した後に奴隷として売っちまおうぜ!」


 そう言うと兵士の一人がフェルナに手を伸ばして服を掴んできた。


「嫌!離して!」


「おいおい、暴れるなよ!優しくするからさー」


 そう言ってその兵士は服を強引に脱がそうとしてきた。しかし、そのとき咄嗟に身を守るためにフェルナがその兵士の腕に噛み付いた。


「痛っ!」


「かはっ!」


 激痛が走った男は思わずフェルナを突き飛ばした。石の地面に背中から叩きつけられたフェルナは肺の酸素を失った。


「おいおい、生意気なことしてくれんじゃねーの。もういいや、お前用済み」


 腕を噛まれた男は頭にきたのか剣を上に構え、フェルナ目掛けて振り下ろした。


――ドシュッ


 地面に赤黒い血が徐々に広がっていった。しかし、この血はフェルナから流れ出たものではなかった。


「お母さん!」


「フェルナ・・・」


 母親が咄嗟にフェルナを突き飛ばしたのである。母親は一言フェルナの名を呼ぶと事切れた。


「あーあ、もったいねぇ。聞き分けの良さそうなこっちの女は後でゆっくり楽しもうと思ったのに」


「ああ、あぁ・・・」


 目の前で家族を全て失ってしまったフェルナには幸か不幸か男の下衆な発言が聞こえなかったようだ。


「まあいいや、今度こそ終わりだな」


 そう言うと再びその兵士は剣を振り下ろそうと構えた。フェルナはぎゅっと目を閉じて身構えた。しかし、いつまで経っても剣が振り下ろされる気配は無かった。恐る恐る目を開けると、男の喉を一本の矢が貫通していた。


「かかれ!」


 フェルナの後ろの方から聞こえてきた一人の少年の号令により、鋼鉄の鎧を纏った兵士が一斉に貴族の兵士達の方へと向かっていき、次々と薙ぎ倒していった。


「なんだお前らは!?調子乗るんじゃねぇぞ!」


 そのとき貴族の兵士の一人が鋼鉄の鎧の兵士の間をかいくぐって走ってきた。たまたまその兵士の進路上にいたフェルナの視界には怒りに歪んだ形相をして剣を振り下ろしてくる顔が見えた。しかし、その直後彼女の視界には金色の獅子があしらわれた外套が広がっていた。

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