—09— 悲劇の始まり

 それはある日遂に起きてしまった。貧困街の出の小さい子がほんの出来心で貴族の持っていた食べ物を盗んでしまった。それくらい仕方ないと思って見過ごす貴族もいるが、今回の貴族は運悪く貧困街を潰そうとしている連中の仲間だった。その少年は不幸なことに貧困街を潰そうという思惑に利用されてしまったのである。ただ食べ物を盗んだだけで見せしめとして大衆が見ている前でいたぶられ、処刑されてしまったのである。


 このことがきっかけとなり、遂に限界がきた貧困街の住人達は貴族の思惑通り反乱を起こしてしまったのである。以前から反乱を企てて準備はしていたため、行動に移るまでそう時間はかからなかった。


 反乱を起こした貧困街の住人達は勢いよく中央区へと攻め込んだものの、事前情報によって待ち構えていた貴族の私兵と王国騎士団によって瞬く間に総崩れになってしまった。王国騎士団は中央区への侵入を防ぐことに徹し、無駄に命を奪うことはしなかったが、貴族の私兵は逃げていく住人達を追撃し次々と殺していった。王国騎士団はそんな彼らを良くないと思いつつも貴族側にも正当な理由があったため彼らを止めることはできなかった。


 しかし、悲劇はこれだけでは終わらなった。貴族の私兵達は反乱を起こした住人達だけでなく、貧困街にいた他の住人達まで殺し始めたのである。


「おい、逃げろ!」


「こっちは駄目だ!貴族の奴らが道を塞いでやがる!」


「お父さん!お母さん!どこ行ったの!?私を一人にしないでー!」


「もう終わりじゃ・・・」


 ここは貧困街。今まさに貴族の私兵が大量に押し寄せ、罪も無い人達も含めて片っ端から見つけて殺していた。両親の目の前で小さな子の首を斬り裂き、逃げる体力もない老人に火をつけて焼き殺し、我が子を必死に庇って命乞いをする母親ごと子供を剣で突き刺して殺し、貴族の私兵は非道の限りを尽くした。


 そのような中、フェルナと両親は貴族の私兵がいないところを探して必死に逃げていた。

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