—08— 会えない寂しさ

 それからしばらくクラウはフェルナと会うたびに貧困街にあるフェルナの家まで彼女を送るようにしていた。そうしているうちにフェルナの父親とも仲良くなり、家に上がって皆でお茶をするようになっていた。しかし最近はお見送りどころかパンを買いにフェルナの前へ現れることさえしなくなった。


(最近クラウどうしたんだろう?)


 いつも通りの門の前でパンを売っているフェルナは最近クラウに会えないためか彼のことが気になるようだった。それと同時にどこか寂しげだった。


(まあクラウのことだし今忙しいだけだよね?きっとまたパン買いに来てくれるよね?)


 また彼が来てくれると信じてフェルナは同じ場所で毎朝パンを売り続けると心に決めた。すると、向こうから知った顔の三人が歩いてきた。


「あれ?お前は確かクラウと一緒にいた・・・」


「あ、この間はどうも。フェルナです」


 話しかけてきたのは三人の中で一番長身で元気そうなレニだった。


「ああ!そうだ、フェルナだ!久しぶりだな!」


「お久しぶりです」


「・・・おひさ」


「レニもトウマもヤスウェも元気そうでなにより!パン余っちゃったから食べる?」


「おお、助かるぜ!ちょうど腹減ってたんだー」


 そういうと三人はフェルナからパンを受け取ってむしゃむしゃと食べ始めた。すると食べながらレニがフェルナに話しかけてきた。


「なあ、最近クラウの奴知らないか?前は毎日会ってたのに全然来なくってよー。あいつどうかしたのか?」


「え?三人もクラウと会ってないの?」


「ええ、以前は一日一回は女の裸見ないとやってらんねーとか言って公衆浴場に覗きに行っていたのですが」


 トウマのそんな一言にフェルナは一瞬顔を引きつらせたが直ぐに元に戻し、会話を続けた。


「そっか、皆も会ってないんだ。でもきっと忙しいんじゃないかな?またきっとそのうち会いに来てくれるよ」


「そうだよなー、あいつなんだかんだ言って有名貴族のお坊ちゃんだもんなー。」


 最近クラウが自分達の前に顔を見せない理由は忙しいからだということで皆合意したようだ。その後余ったパンを食べながらしばらく談笑した後レニ達は去っていった。


「フェルナ、パンありがとなー!また遊ぼうぜー!」


「・・・おいしかった。ありがと」


「いえいえ!いいけど覗きだけは勘弁してね!」


 フェルナは笑いながら冗談っぽくそう言うと手を振って三人を見送った。


(さてと、私もお家へ帰ろうかな。・・・・・・クラウ元気かな)


 なかなか会えないクラウのことを思い、フェルナは帰路についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る