第16話 詐欺事件(2)
玲奈「お金はおそらく戻ってこないわね」
ミルキーが諦めたように言った。
勇輝「そうだね、125万円か。厳しいですけどバイト代と経費で実質約65万円 の損失になるかな」
勇輝が電卓で計算して説明すると、権三が言った。
権三「これも品質不具合の1件だな。再発防止をしっかり検討しよう。で、お金を どうやって取り戻すかだな。民事裁判にすれば常識的に金沢から取り戻すこ とはできると思うけどな」
それを利いた香里が口を開いた。
香里「でも、金沢って男にお金がなければ戻らないと思います。もし会社が何とか なるなら請求しないで金沢のお母さんを助けたと思えばいいんじゃないです か?」
権三「え?かおりん、俺たち慈善事業しているんじゃないんだぜ、寄付する身分 じゃないじゃんか」
香里「そうでしょうか?利益が出ているなら寄付したって構わないと思います。
私達、贅沢する気持ちもないし、利益が所得税にばかり行くのなら困ってい る人を救っていった方がいいと思うんです」
勇輝「僕も賛成ですよ。そりゃ、金沢には腹が立ちますけど、恐らく最初は持ち逃 げする気持ちなんて無かったと思うんです。お母さんを救うために目の前に お金が一旦入って来たのでついそんな出来心が出てしまったんじゃないです かね。」
権三「ミルキーはどう思う?」
玲奈「そうね、かおりんと同じだけど。。。金沢には『あんたに寄付する』って 言った方がいいんじゃないかしら。私達はお金はあんたに寄付しましょう、 だけどもう犯罪を犯してはいけないよって」
勇輝「それがいいですね。ミルキーの言うとおりだ。そうすればあのお金も十分役 に立ったってことになる」
権三「ヨタハチ、ミルキー、かおりん、わかったよ。そうしよう。みんな優しい な。つい金を損したことに腹ばっかり立ててしまった。お金って、そうやっ て人を救えるんだな。まして俺たちは金儲けで事業をしているんじゃないん だ。みんなに教えられたよ。それじゃ明日警察に行ってくる。金沢に面会で きたら話してくるよ。警察には起訴しないってことを伝えてくるよ」
翌日、権三と勇輝は川越警察署に行き事情を説明した。取調べ中の容疑者である金沢には面会できなかったが警察官が事情を伝えてくれることになった。『ヨンダサービス』が起訴しないので民事は事件にはならないが刑事事件については警察が起訴するかどうか判断するので権三は警察に今回の件は起訴しないよう頼みこんだ。
結果、警察も不起訴とし、金沢は翌日釈放された。
3日後の夜、金沢は権三のマンションを訪れた。
マンションのオートロックのチャイムが鳴り、ミルキーがモニターを見るとうつむき加減の男が写っている。
玲奈「ヨタハチさん、怪しい男が来たわ。また暴力団かな?」
権三「どれどれ?あっ、あいつだ、金沢だ!」
インターフォンをオンにして勇輝が応対した。
勇輝「はい、『ヨンダサービス』です」
金沢「・・・すみません、私金沢と申します。事件でご迷惑をお掛けした金沢で す」
勇輝「はい、私は契約の時にお会いした山田です。どういったご用件でしょう か?」
金沢「あの時は本当に申し訳ありませんでした。お詫びを申し上げようとお伺いし ました」
勇輝「少しお待ちください、社長に確認します」
勇輝「ゴンさん!金沢が来てます。お詫びを言いに来たそうです」
権三「金沢が?面倒くさいなぁ、なんて言えばいいんだよ、こういう時は?」
勇輝「ちゃんと厚生して二度と事件を起こさないように言えばいいんですよ」
権三「そうだな、じゃ上がってもらって」
金沢は紺色のジャケットにグレーのスラックスを履いていて、汚れた革靴を玄関で脱いで案内されたリビングルームに入ってきた。
権三がソファーから立ち上がると金沢はいきなり膝を付き頭を床につけた。
金沢「本当に申し訳ありませんでした。お金は一生かかってでも必ず返します。」
権三「もういいですよ、事情も聞きました、あのお金は・・・」
『いらない』と言いかけた権三をさえぎって勇輝が話し始めた。
勇輝「お金は分割で良いので返してください、そして二度と犯罪を犯さないと約束 してください。そうしないとお母さんが悲しみますよ」
金沢「はい、必ず返します。そして二度と法を犯すような事はしません」
勇輝「宗教団体の方にはお話したんですか?」
金沢「はい、警察から釈放されてすぐに行って謝罪しました。団体は除籍されまし たけど」
権三「それでこれからどうされるのですか?仕事とか」
金沢「今のところ何も決まっていません、アテは全くありませんので。何とか生き ていこうと思います。仕事がみつかって少しでもお金を稼げるようになった らお借りしたお金はお返ししますので」
権三は勇輝に合図し、金沢に言った。
権三「ちょっとすみません、お茶飲んでいてください」
権三の部屋で二人は話した。
権三「ヨタハチ、おのお金はいらないんじゃなかったっけ?返してもらうのか い?」
勇輝「返してもらうようにした方が金沢のためですよ。返すために一生懸命仕事し てもらうんです。でも仕事がないと言っていたので返せないかも知れませ ん、それならそれで仕方がないと思います。返済を期待しているわけではな く、彼が厚生するためです」
権三「なるほどそういうことか。あのさヨタハチ、それならあの男ウチで雇わない か?」
勇輝「え?ゴンさん、本気ですか?」
権三「うん、川越はあの宗教団体以外にも墓地が多いし市場はかなりあると思うん だ。川越を拡販してアイツにバイトの取りまとめをしてもらったらどうか な?もちろん、正社員にはできないので当面はバイトとしてだけど」
勇輝「なるほど、意外と一生懸命やってくれそうですね。念のためにダメだったら 辞めてもらうことを条件としておきましょうかね」
権三「よし、そうしよう」
権三は金沢に川越で仕事して欲しいという事を伝えると金沢は涙を流して頭を下げた。
金沢「こんな不義理をした私に何から何まで面倒見ていただいて返す言葉もございません。是非やらせてください」
金沢は時給千円で契約した。時給分以外に交通費と通信費(携帯電話メール、通話料分)も追加で支給する。給料だけで月に15万円程度の所得だ。
金沢は1Kのアパートに引っ越した。敷金礼金不要で家賃月5万円だった。
後日届いた金沢の履歴書を見て勇輝が驚いた。
勇輝「ゴンさん、金沢ってヤツ、東大出ですよ。東大法学部を出て「財務省」に2 年間勤務してます。キャリア官僚ですよ!」
権三「ええ~マジかよ。それで宗教団体に行って?・・・個人で事業しているって 言ってたよな?」
勇輝「それが事業していた事は履歴書には一切書かれていません。おそらく所得は なかったんじゃないですかね」
権三「2年間のキャリア官僚時代の蓄えだけで生活していたのかな?」
勇輝「そうかも知れません」
権三「人生って何が幸せなんだかわからんな、東大出のキャリア官僚が犯罪犯して 今は時給千円のバイトだもんな」
勇輝は窓の外の横浜の港を見ながらため息をついた。
勇輝「そうですね」
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