第15話 詐欺事件(1)
寒い1月、2月が過ぎ、4人が初めて出会ってから1年が過ぎようとしていた。
権三「おし!また商談だ。めずらしく封書で依頼が来たよ」
勇輝「ゴンさん、どこからですか?」
権三「埼玉県川越市って書いてある。約40件分の依頼みたいだ」
勇輝「えーそれは大口じゃないですか、それだけまとまれば川越でも利益出ます
よ」
権三「そうだな。まてよ、『幸福の御霊』って団体からだ」
勇輝「そりゃ宗教団体ですね、きっと」
権三「ヨタハチ、こういうのは危険ってことかな?」
勇輝「そうですね。そこ、ちょっと調査してみます」
勇輝はネットで調べたが宗教団体では『幸福の御霊』という団体は検索できなかった。手紙を良く見ると、「宗教法人」とも「株式会社」とも書いていない。
ヨタハチ「個人なのか?」
勇輝は手紙に書いてあった電話番号に電話を掛けた。
勇輝「もしもし、ヨンダサービスの山田と申します。お墓清掃に関しましてお手紙 をいただきまして・・・」
金沢「はい、私が送り主の金沢です。」
野太い男の声だった。
勇輝「約40件のご依頼ということでよろしいでしょうか?」
金沢「はい、川越市に『幸福学会』という宗教法人がありまして、そこが経営する 墓地で清掃サービスを希望されているのですが、御社のサービスを知りまし て是非お願いしたいと言うことなんです。『幸福学会』の墓地には140も のお墓がありますので場合によってはさらに増えると思いますがまずは41 件ということでお願いしたいのですが場所が川越でも引き受けていただけま すか?」
勇輝「はい、今のところ川越ではサービスさせていただいていないのですがそれだ けまとまったお客様のご要望でしたら約1ヶ月ほどでサービス環境を整えて 対応させていただきたいと思います。契約は幸福学会様ではなく、金沢様 と、という事になるのでしょうか?」
金沢「はい、私が幸福学会から取りまとめを任されております。一筆いただいてい ますので今度お見せいたします」
勇輝「なるほど、わかりました、よろしくお願いします」
勇輝「ゴンさん、川越、大丈夫みたいですよ。ここだけで売上が月に約35万円に なります。近くでバイトを2名雇ったとしてバイト代が月に合計14万円。 交通費を2万円差し引いても月に16万円、年間約192万円の純利益にな ります」
権三「そうか、よし早速かおりんに川越在住のバイト探してもらおう」
川越在住のバイトはすぐに男子大学生が見つかった。大学生なのでサークル仲間4人で手分けして仕事をしてくれることになった。4人には早速横浜に1泊で来てもらい研修を行った。お墓に対する尊敬の念を持つ事から教育し、墓の掃除の方法、掃除用具の使い方、花や線香の手向け方、作業前後のデジカメ写真の撮影方法など権三と勇輝が徹底的に教育した。
金沢氏には「約1ヶ月後」と話したがバイトがすぐに見つかったこともあって、二週間後には仕事が開始できた。
初日は権三と勇輝も現地へ向かいバイト4人とは最寄駅で落ち合った。
『川越霊園』という『幸福学会』の墓地は川越駅からタクシーで20分ほどのところにあった。広い丘の上に立つ墓地だが思ったよりも古いようで公園墓地ではなく通常のお寺の墓地のように1件ずつ区切られた墓地だった。管理事務所に案内され、依頼者からの墓地を聞き区画と簡単な地図を書き、バイトチームが間違えないように繰り返し墓地を歩いて確認した。今日から清掃作業を行う事で合意していたのでバイトが手順に従って作業を行うのを権三と勇輝が最後まで確認した。
勇輝「今日のみなさんの作業は手順通りで良かったです。今日は10件でしたから 明日も予定の10件をお願いします。その後も計画表に従ってしっかりお願 いします。作業前後の写真は必ず時間を明記してメールで送ってください」
バイトを駅までタクシーで送り横浜への帰路に着いた。
権三「何だか順調過ぎるなあ、ヨタハチ!本当なら今頃生きていなかったかもしれ ない俺たちが新しい事業をして利益を上げてまともな生活までできそうに なってきているんだからな」
勇輝「そうですね、このまま順調に行って所得も増えれば共同生活でなくそれぞれ アパート借りるなどすればプライベートも一人前の生活もできますよね?」
権三「うん、今のペースでクライアントが増えれば来年くらいには給料が公務員並 みにできるかもしれないからな」
勇輝「それって、すごいですよ!公務員並みの給料もらって、それでも会社は黒字 決算してきちっと納税する。これが社会貢献です」
権三「『社会貢献』。。。かぁ」
電車の窓から暗くなってきた空を眺めて権三は充実したこの1年を振り返っていた。
川越地区の仕事はまじめなアルバイトの働きもあって当初41件のクライアントは翌月には78件にも増えた。宗教法人の週報やホームページで『ヨンダサービス』の仕事が評判良いと掲載されたためだった。
しかし勇輝は浮かぬ顔をしていた。
権三「どうしたヨタハチ、クライアントは倍増だぞ!」
勇輝「ええ、でもゴンさん、先月作業した分の費用36万4千円なんですが、月末 に振り込まれていないんですよ」
権三「そんな、請求書はどうなってる?」
勇輝「ミルキーが送付した請求書の控えを確認しましたが、『幸福の御霊』の金沢 様あてに月末締めで翌月の10日払いで間違いなく請求しています」
権三「確かにそれなら支払い契約の通りで間違いないな、おかしいな、きっと最初 だから理解できていないんじゃないかな?そしたら金沢さんに催促のメール を入れておいてよ」勇輝「そうですね、わかりました」
78件に増えたクライアントは週をおう毎に増加し2ヶ月後には100件を超えた。
増加したクライアントの墓地の場所と契約タイプが書かれた契約書が金沢氏から郵送で毎週のように送られてきた。
権三「川越ってとこは田舎なのに墓参りできない人が多いのかね?理由をしっかり 知らべて市場調査すればクライアントが増える地域が想定できるってもんだ よな」
勇輝「そうですね、でもバイト君の話を聞いたんですが、ここは宗教団体なので普 通の墓地には入りたくない方が多いみたいなんですよ。同じ宗教の人だけの 墓地に入りたい、従って遠方の方がかなりいるって理由らしいです」
権三「なるほど、それじゃ宗教団体に売り込むのは良い営業政策って事だな」
勇輝「はい、それにホームページで教団員全員に宣伝してくれますしね」
権三「よし、かおりんに言って宗教団体の調査をしてもらおう」
月末になって玲奈は金沢氏に請求書を送った。総額88万7千円だ。
勇輝「ゴンさん、今月と先月の未納分合わせて125万1千円なんですが、ちゃん と振り込まれますかね?」
権三「振り込まれないと困っちゃうよ、今月は未納ではまずいから明日にでも一度 電話してみてよ」
翌日勇輝が金沢氏に電話をかけた。
勇輝「金沢さん、今月も請求書をお送りしましたが先月分が未納なんですけど」
金沢「はい、すみません、『翌々月払い』と勘違いしておりまして、メールいただ いて気が付きました。次の10日に合計してお支払いしますので」
勇輝「そうですか、わかりました。よろしくお願いします。」
電話を切った勇輝は安堵した。
勘違いなら仕方がない。
その夜、内容を権三に話した。
権三「まぁそれならキャシュフローも何とか大丈夫だろう」
そして支払い約束の10日を過ぎ11日になった。
勇輝「おかしいですよ、ゴンさん、やっぱり金沢氏から振り込まれていませんよ」
権三「なにー、どうなってんだ。踏み倒すつもりかよ!よし、俺が電話するよ」
権三が金沢氏の携帯に電話を掛けた。
--お掛けになった電話は電源が入っていないか電波の届かない場所で繋がりません---
権三「あれっ?電源入ってないって。電池切れかな?」
その後も夜まで何度かけても同じだった。
勇輝「ゴンさん、もしかして?」
権三「もしかして、だよな?」
二人は顔を見合わせた。
翌朝、二人は川越に向かい『川越霊園』の管理事務所を訪れた。
管理人に墓地清掃サービス費用について聞いたところ、契約月の翌月から金沢氏に料金を支払っていると言う。
勇輝「金沢様から私どもには今まで入金がないんですよ」
管理人「本当ですか?それはおかしいですね。金沢さんは『幸福学会』の信者さん で独立して個人で事業されているんです。何か事情があったのかもしれませ んね。金沢さんの自宅は川越駅の近くなので行ってみましょうか?」
権三「はい、是非お願いします」
タクシーで川越駅に向かい、駅前の商店街の入り口でタクシーを降りた。
管理人「ここの路地を入ったところのマンションですよ」
行ってみるとマンションと言うよりコンクリート2回建てのアパートだった。
管理人と金沢氏の部屋だという202号室に行ってみると、玄関のドアのポストは新聞が5部ほど溜まっていた。
管理人「旅行ですかね?長く不在みたいですよ」
権三「やられた!逃げられたぞ!」
勇輝「ゴンさん、警察です!」
権三「おう!」
川越駅前交番に行って事情を話し、警察官の指示に従って『川越警察署』にタクシーで向かった。5分ほど走った国道16号線沿いに警察署はあった。
交番から連絡を受けていた二課の刑事が事情を詳しく聞いてくれた。
被害届けを出して今日のところは帰れという
勇輝「捜査していただけるんですよね?」
警察官「被害届けは受理しますが事件性が確認取れておりません。いずれにしても まずは金沢さんの身元と所在を確認します。それによって状況が変わると思 いますのでまたご連絡いたします」
権三「わかりました。よろしくお願いします」
権三「ヨタハチ、このまま川越の仕事続けるわけにはいかないぞ」
勇輝「しかし、川越のクライアントには迷惑がかかりますよ」
権三「これは『ヨンダサービス』と契約者である金沢氏との問題だ。クライアント がどうでも仕方のないことだろう?」
勇輝「いえ、それは『ヨンダサービス』の会社の意思と違います。当社はお墓参り に行けない方のお手伝いをする事で喜ばれるためにやっているんです。一度 お願いされたことをお金だけの問題でお墓を離れることがあってはいけませ ん」
権三「う~ヨタハチ、その通りだ!お前、大したヤツだなぁ」
勇輝「しかし!お金は大切です」
権三「なんだよ、やっぱ俺と同じじゃないか」
勇輝「ですから金沢氏を経由しないで『川越霊園』と契約するか、直接クライアン トさんから集金しましょうよ」
権三「そうか、元々クライアントさんは誰に支払っていたんだろか?金沢氏なのか 霊園なのか」
勇輝「それは金沢氏でしょう。委託されていたわけだし、霊園なら金沢氏を通す必 要もないですよ。金沢氏は若干の集金マージンを得ていたと思います」
権三「そうだよな。だとすると1件ずつ説明して振込先を当社に変えてもらう必要 があるわけか」
勇輝「それは大変なので、霊園に掛け合って、集金作業していただいて霊園から当 社に振り込んでもらいましょうよ」
権三「そんな事してくれるかな?」
勇輝「交渉次第ですね、やはりマージンは支払う必要があると思います。当社も直 接契約よりも工数かかりませんからね。例えば今より10%値引きしてその 分を霊園の取り分にするとか」
権三「良く知恵が回るなぁ、まぁ仕方ないな。あんな金沢なんてヤツを信じたのが まずかったな。これも教訓としよう」
霊園に掛け合った結果、宗教法人側が取り持ってくれることになり、そこから『ヨンダサービス』に振り込んでくれることになった。
そしてその翌日、警察から電話があった。
警察官「金沢氏の件ですが実は大阪見つかりました。大阪警察で本人に事情を聞い たところ犯行を認めました。詐欺事件になります」
権三「大阪で?」
警察官「ええ、金沢の実家が大阪なんです。大阪の実家に住む母親が脳梗塞で三ヶ 月前に倒れ、そのリハビリ専門病院に転院させるためにお金が必要だったよ うです。病院に入れたら逃亡生活に入るつもりだったようです。早く時期に 被害届けを出していただいてよかったです」
権三「それでお金は戻るんですか?」
警察官「まだわかりません。すでにに転院先の病院には支払い済みなようなので後 は本人に支払い能力があるかどうかです。支払い等につきましては民事にな りますので弁護士にご相談された方がよろしいかと思います。警察では詐欺 として起訴するよう進めます」
権三「わかりました、ありがとうございました」
電話を切った権三は事情を3人に話した。
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