第14話 暴力団の恐喝

玲奈はマンションで請求書の発送などの作業に追われていた。三人は現場で作業のために留守だった。そこへマンションのオートロックのチャイムが鳴った。


玲奈「はい、どなたですか?」

客の男A「仕事のご相談に来たのですが」

玲奈「申し訳ありません。本日は責任者が出かけておりまして夕方まで帰らないの  ですが」

男A「ちょっとお渡ししたいものがあるので参ったのですが入れていただけません  か?」

玲奈「わかりました」


モニターでは男性二人だったので一瞬悩んだが、何か仕事の資料を受け取るだけだろうと玲奈はオートロックを解除した。

しばらくしてマンション玄関のチャイムが鳴ったのでドアを開けてみると二人組の男はすぐさまドアの中に入ってきた。どんな人か一目でわかった。


「ヤクザだ!」


心で叫んだ玲奈だったがすでに玄関に入ってきているので大声で叫ぶのは危険だ。


玲奈「なんでしょうか?」

男A「ちょっと失礼しますよ」

   二人は靴のまま上がりこんできた。

玲奈「やめてください、警察呼びますよ」


一人の男が薄いサングラスを外しながら玲奈を見て言った。


男A「ほう、警察ですか。あなた方の方が警察に捕まりますよ」

玲奈「何でですか?とにかく帰って・・・」

男B「このマンションは法人の入居は認められていないんですよ、でも調べてみる   とこの部屋が事業の本拠地になっていますねぇ、『ヨンダサービス』さん。   いや、我々はマンションの者ではないんですよ。せっかく法人として皆さん   が頑張っていらっしゃるので我々も応援して差し上げましょうかとご提案さ   せていただこうかと参ったわけなんですよ」

玲奈「ですから今日は責任者がおりません」

男A「ええ、結構ですよ、社長さんは原田さんとおっしゃるんですよね?原田さん   にこの手紙を渡してよろしく伝えていただければいいんです」

玲奈「わかりました。渡しておきますからお引取りください」

男B「我々も良いご提案だと思ってわざわざやって来た訳ですから無下にお断りさ   れても困りますよ、そのあたりはうまくお話しておいてくださいね、万が一   お断りされた場合は我々の事務所のトップが直々にご相談しなければならな   くなりますんでね、お嬢さん!」

玲奈「わかりましたから帰ってください!」

男A「はいはい、じゃまた来ますよ」


その日の夕方、権三と勇輝が一緒に帰宅した。

事情を説明して手紙を渡すと内容を読んだ権三は青ざめた。


勇輝「何て書いてあるんです?ゴンさん」

権三「金田興業という会社の山崎という男だ。内容はな、暴力団の脅しだよ。この   マンションは個人契約のみなので法人が使用することは禁じられている。

   しかし、当社が仲介となって法人での使用が可能なように調整します。調整   料は月額20万円!」

玲奈「あのバカ野郎!月額20万円だって?」


玲奈は怒りに震えている。


勇輝「すぐに警察に連絡しましょう」

権三「いや、待てヨタハチ。警察に連絡すればこのマンションで事業活動はできな   くなる。確かにこのマンションは個人のみで法人は認められていないんだ」

勇輝「かと言って暴力団に20万円は払えませんよ」

権三「そりゃそうさ、今は反社会的勢力に対する条例も厳しいしな。でもどうした   らいいかな?目を付けられてしまった限りは断っても報復がありそうだし」


勇輝「マンションとの契約の問題と暴力団の問題は別問題ですよ。早く警察に連絡   しないと」

権三「まあ待ってくれ。大体、暴力団がどうしてマンションと調整してここで事業   できるようにしてくれるってんだ?どういう調整なんだろう?」

勇輝「調整なんてそんなのウソですよ。弱みに付け込んで金を絞り取る常套手段で   すよ」

権三「よし、俺が暴力団と話してみよう」

玲奈「ゴンさん、すごくコワモテのガタイのいいヤツらですよ、あいつら」

権三「ミルキーちゃん、そうは言っても話すくらいじゃ殺されないだろう?大丈夫   さ」


権三は手紙に書かれていた電話番号の山崎と言う男に電話をかけた。山崎は比較的低調ながらも脅し文句は忘れない。


山崎「原田社長さん、手紙に書きましたが私どもがおたくの会社の運営に力を貸し   て差し上げようって提案なんですよ。理解できとるんですかね?」

権三「ええ、このマンションでの事業を今後も継続してできるようにしていただけ   ると。。。」

山崎「さようです。今回は特別な価格なので文句はないでしょう?」

権三「しかし、私たちは毎月そんなお金が払えるような会社じゃないんです。勘弁   していただけませんでしょうか?」

山崎「原田さん、悪い話じゃないと思いますよ。金額でしたら相談に乗りましょ    う。一度私ども事務所にお越しいただけませんか?」

権三「えっ?そちらに?わ、わかりましたよ、伺います。拉致されたりしませんよ   ね?」

山崎「拉致?別に危害を加えたりしませんよ」

権三「わかりました。明日、伺います」


玲奈「ゴンさん、暴力団の事務所に行くなんて無茶ですよ」

権三「ミルキーちゃん、成り行きでそうなっちゃったんだよ。いずれこのままじゃ   解決しないしね」

香里「いっそのことどこか事務所を借りましょうよ、ここを出ればいいんで      しょ?」

権三「かおりん、それも手だけど、家賃、共益費、光熱費が毎月かかるし、入居時   に敷金とか10ケ月分とか言われちゃうんだよ。まだ貯金できてないし、貸   してくれるところもないよ」

香里「そうですよね。。。」


翌日、権三は暴力団の事務所に向かった。

入り口で何度もためらったが思い切ってドアのチャイムを鳴らした。

中から若い組員が出てきた。


権三「ヨンダサービスの原田と申します。山崎さんとお約束で伺いました」

男「ちょっと待ってください」


しばらくして中に通された。


廊下の虎の剥製がこちらを睨んでいた。

大きな扉を開けると応接室だった。組長らしき男の写真が大きな額に入れて飾られていて額の下には日本刀が2本と目立つように大きな金庫が置いてあった。


男「お座りください」

権三「はい・・・」

男「今日は私どもの組長がお話があるのでもう少しお待ちください」

権三「え?あ、はい・・・」


しばらくするとドアが開き、恰幅の良い50代と思われる男が入ってきた。

権三はすばやく立ち上がった。


組長「ようこそいらっしゃいました。私はこの事務所を任されています『いっとう   さい』と申します」

権三「いっとうさい、さん・・・」


渡された名刺を見ると『一刀斎良英(いっとうさいりょうえい)』と書かれていた。

もちろん本名ではないのだろう。


組長「どうぞお掛けください、今日は私どものご提案について金額がご不満とのこ   とでご相談とか?」

権三「いえ、あ、はい」

組長「通常、このような事案の場合は調整料として月50万円なのですがおたくさ   んの場合は失礼ながら小さな事業をされているようなので20万円という特   別価格でお話させていただいていたんですよ。それも無理ということですか   ね?」

権三「あ、はい、たった4人で始めた事業なんです。それも自殺願望者だけで」

組長「自殺願望者?自殺したい人の集団ということですか?」

権三「そうです。自殺をしようと考えている人がインターネットで知り合って集    まってみたんです。そうしてお年寄りのお手伝いをした事が仕事になってし   まって。今は自殺を先送りしてこの仕事を進めてみようって事で」

組長「ほう、それは面白い。死ぬつもりで集まった集団が仕事を作って生き甲斐を   感じているって事ですかね。実に面白い」

権三「そうなんです。「生き甲斐」を感じているんです。気が付いたら誰も自殺し   ようとしていないんです」

組長「どんな事業をされているんですか?原田さん達は?」

権三「墓の掃除です。その墓地で知り合ったお婆さんがなかなか墓参りできなくて   墓が荒れてしまって困っていたんです。それで私はどうせ毎月亡くなった妻   の墓参りをしているのでその時に掃除をしてあげようと話したんです。そう   したらお婆さんが毎月お金をくれるって言うんでお言葉に甘えてたら同じよ   うな要求があちこちからあって・・・」

組長「なるほど、それで会社にして儲かってるってわけだ」

権三「いえ、儲かってはいません。どうせ死ぬ身なんです。儲ける必要もない、死   ぬまでに人の役にたってみようかという気持ちだけです」

組長「原田さん、わかりましたよ。あなたがたも底辺で生きて頑張っているんだ。   野暮なことは私もできませんや」

権三「本当ですか?ありがとうございます」

組長「おい、原田社長がお帰りだ!」


組長がドアのところに立っていた若者に指示した。


組長「頑張りなさいよ、他の組とかがちょっかい出してきたらいつでも連絡して来   なさい、私が必ず何とかしましょう」

権三「あ、ありがとうございます、ありがとうございます。では失礼します」


帰宅した権三を心配していた三人が迎えた。


玲奈「どうだった?怪我は無かった?」

権三「どうってことないさ!話は俺の主導で進んだよ。『お前らのそんな理不尽な   話が通るわけないだろ』って事でしっかり言い聞かせて収まったよ。あいつ

   らは二度と来ないよ」

玲奈「え~?本当ですか?すごい!」

権三「ミルキーちゃん、俺だよ、俺!当然の結果じゃないか」

勇輝「ゴンさん、実は怯えながら土下座でもしたんじゃないですか?」

権三「ヨタハチ!俺は土下座なんかしないよ、まぁ怖かったけどね・・・」

勇輝「結局誤って勘弁してもらったと」

権三「はい、まぁそうです。自殺願望者が集まってお年寄りを手伝った事が仕事に

   なって何とか頑張ってるんだ、って言ったら組長がいたく感動してくれて

   ね。暴力団も組長クラスになると人間できているみたいだな」

勇輝「とにかく良かった!乾杯しましょう」

権三「そうだそうだ!ヨンダサービスは益々発展するぞ!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る