第11話 事業の拡大
翌日、公園墓地の管理人から権三に電話があった。
管理人「お墓の掃除の件ですが、檀家さんにお話したところ5件からお願いしたい と言われていますがいかがでしょうか?」
権三「5件ですか?同じ場所だし特に問題はありませんが。いいんですか?」
管理人「いや、是非お願いします。今月からでもお願いしたいのですが」
権三「わかりました。いずれ今週の金曜日に行くのでその時に依頼者のお墓を案内 してください」
権三はすぐに勇輝に話した。
勇輝「ゴンさん、5件から月2万円で10万円。あの五十嵐和子ってお婆さんから 10万円で合計20万円の収入ですね」
権三「そうだな、自殺願望者が墓の掃除して収入を得るってのは何だか皮肉なもの だなぁ」
勇輝「でもゴンさん、この仕事って、我々に向いてますよ。人間関係もない、スト レスもない、仕事を翌日に持ち込むこともない、納期もない。色々なストレ スで自殺を考えるような我々にピッタリだと思うんです」
権三「そりゃそうだな、ま、しばらくやってみるか、イヤになったら止めりゃいい んだし」
四人は毎週1回権三の車で藤沢の公園墓地に向かった。6軒の墓地をきれいに掃除をして線香と花を手向けた。
権三「簡単な仕事だなぁ。これで月に20万円か」
勇輝「ガソリン代もばかになりませんけどそれでも十分ですね。あと10軒くらい やらせてもらえばしっかりした稼ぎになりますよ」
権三「掃除用具もちゃんとしたものを買ってこないとな。プロ用みたいなヤツを」
勇輝「そうですね。明日にでもホームセンターに行ってみましょう」
1ヶ月経ったある日、墓地で掃除をする勇輝の姿をお墓参りに来た夫婦が見つけ声を掛けてきた。
男性「あなた方がお墓の掃除をしてくれる方々ですか?」
勇輝「はい、そうです。このあたりのお墓の掃除をお願いされてやらせていただい ています」
女性「うちのお墓もお願いできませんか?」
勇輝「ええ、いいですよ。ここの墓地には毎週来ていますので」
男性「費用はおいくらくらいですか?」
勇輝「あまり決まっていません、あまり無理なさらないで結構ですよ」
女性「今、お掃除していた方の場合はおいくらなんですか?」
勇輝「はい、月2回で2万円いただいています」
男性「じゃうちも同じでお願いします。銀行の口座番号を教えていただければ振り 込みますので」
勇輝「わかりました。住所を教えていただければ作業の前と後の写真を毎月お送りしますので。よろしくお願いします」
2ヶ月後----=6月5日
マンションの電話が鳴り、玲奈が電話に出た。
玲奈「はい、少しお待ちください」
玲奈は電話を保留にして勇輝に渡した。
「お寺の住職さんだって」
勇輝「はい、「原田」でございます」
この仕事は権三の苗字を屋号として受け付けていた。
電話は横浜市内の「明徳寺」という寺の住職からだった。
住職は藤沢の公園墓地で読経の依頼を受けるなどで長く関係があり、勇輝達のお墓掃除サービスを聞いていた。
住職「私どもは横浜市戸塚区にある寺なんですが、こちらも藤沢と同じようにお墓 の清掃をお願いできませんでしょうか。檀家さん2軒から依頼があるので す」
勇輝「そうですね、戸塚でしたら電車でも近いのでお手伝いできると思います」
住職「そうですか。是非お願いします」
勇輝は場所と電話番号を聞き、その夜、権三に話した。
権三「戸塚か、まあ近いからいいんじゃないかな。10軒くらいに増えるといい ね」
勇輝「そうですね、住職は他の檀家さんにも話してみるって言ってたので増えるか もしれません」
勇輝は翌日寺に向かい、簡単なパンフレットで住職に掃除の内容や費用、支払い方法を話し、パンフレットを檀家さんに渡してもらうよう依頼した。
藤沢と戸塚の合計で掃除依頼主は15件となった。月収40万円。四等分して一人10万円の稼ぎだ。共同生活を送っている間はこれで食べていける。
権三「さぁさぁ、今日も頑張って行きましょう。ヨタハチとミルキーとかおりん は、公園墓地のAブロックの2件とCブロックの2件ね、俺は明徳寺の2件 を担当ってことで頼みますよ」
依頼者はその後も口コミで広がっていった。
戸塚のお寺では1ヶ月後には10軒に増え、藤沢では公園墓地近くのお寺からも依頼が来て藤沢地区で40軒を超えていた。
権三「おいおい、すごい勢いで増えてるぞ、52軒だよ」
勇輝「そうですね、実作業だけでなく、掃除用具の清掃や補充、入金の確認もあり ますからね。しかしまだまだ余力はあります。掃除の実作業は3人でやった としても1日12軒は掃除できますからね。移動を無視すれば計算では月に 120軒分契約しても大丈夫の計算になります。120軒だと月に240万 円の収入ですよ」
権三「240万円!?すげぇ!この商売やめれないぞ。よし120軒契約目指して 頑張ろう!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます