第7話 自殺したい理由は

権三「さて、揃いましたね、みなさん。今日はわざわざありがとうございます。じゃ私から今日の趣旨をご説明します。みなさんご承知の通り、私達はこの世から消えたいと思っている人ばかりです。ですから恥も何もありません。今日はこのメンバーで好きなように意見を言ってみましょうよ。特に自殺の事だけでなくてもイイと思います。但しお互い話した内容は秘密にするようにしましょう」


玲奈「それじゃまずゴンさんから話してくださいよ」

ミルキーが言うとゴンは頷いた。


権三「はい、それじゃ私からお話しましょうか。私はですね、横浜生まれの横浜育ちで今年38歳になりました。8年前に妻と結婚し本当に素敵な結婚生活を送っていたんです。でも妻は去年の11月に交通事故で急死してしまったんです。子供もいなかったですし、それからは生きていく気力もなくなってしまって、会社も辞めてしまった。何もする気力がなくなって家で毎日伏せているような生活です。これ以上生きていくことは苦しいだけだと思うようになってきたんです。それで自殺することを考えたんです。このマンションから飛び降りることも何度も考えたんですが、身体がグチャグチャになってしまうことを考えるとそれができなくて。天国で妻と会った時に今と変わらない姿で逝きたいんです」


玲奈「そうなんですか。でも死んじゃえば魂だけが天国に行くので身体は関係ないんじゃないですかね?」


権三「え?そうかな?どんな死に方でも?例えば飛び込みで電車に引かれて真っぷたつって状態でも?」


勇輝「たぶんそうだと思います。天国には魂だけが行くんだと思うので。でなければ事故で死んだ人は天国で浮かばれないじゃないですか」


権三「なるほど、そうかぁ・・・ま、とりあえず皆さんのお話を聞きましょ。それじゃヨタハチさん、話をお願いします」


勇輝「はい、僕は世田谷でクルマの整備工をしていたんですが去年の9月に工場が倒産しちゃったんです。それで都内で自動車整備工場を当たってみたんですがどこも人を採用するような状況じゃなくって。ハローワークに通っていたんですけど失業保険ももうすぐ終わっちゃいます。蓄えていたお金もほとんど無くなってちゃったんです。僕には家族もないし友達もいない。両親は僕が幼い頃に離婚して母に育てられたんですけどその母も5年前に病気で死にました。生きていく理由って言うか目的って言うか、そんなものが何も見つからないし金がなければ生活だってできやしない。僕が死んでも誰も悲しむ人もいないんです。だったら早く母のところに行きたい。今は毎日そう思っているんですが自殺なんて簡単にできないじゃないですか。それでネットに書き込んだんです」


権三「なるほど、でもあなたの場合は死ぬ必要までないような気がするんだけどな。まだ若いんだし、僕みたいに仕事する気力が萎えてしまったわけじゃないし」


勇輝「いえ、もういいんです。また仕事探して苦労してお金稼いで頑張って生きても苦労するために生きるだけなんです」


香里「わかります。生きている意味がなくなるってことなんです。人生ってほとんどが苦労して悲しんで・・・楽しくて幸せな時間なんてほんの僅かなんです。その僅かな楽しみのためにたくさんの苦労をしているんです。それで、その僅かな楽しみが無くなってしまった人は生きている意味がなくなったってことなんです。」


権三「まぁ、確かにそうだわな。わかりました。とりあえず全員の話を聞こうかね。それじゃミルキーちゃん」


玲奈「はい、あたしは失恋なんです。たかが失恋って思われるかもしれないけど、本当に大好きで青春を一緒に過ごした彼だったんです。その彼が結局あたしを裏切って別の女性と結婚したいって言い出してあたしの前からいなくなってしまったんです。しかも二人で貯金したお金を全部持って。今でも彼があたしを騙していたとは信じてないけど彼はあたしを捨ててしまったことは確かです。彼と結婚することが前提で今までの私の人生計画があったから今からまた別の男性と最初からお付き合いして人生計画を作り直すなんてイヤなんですよ。それに今回のことで男性不信になっちゃったから男友達の言葉さえも信じられなくなってしまって。だからもう生きていたくない。それでそう、どうせなら彼に精神的ショックを与える形で死にたいんです。彼の人生もそのまま天国に持っていきたい」


権三「女はこえ~なぁ~」

勇輝「ミルキーさんはご両親はいるんでしょ?」

玲奈「ええ、実家の熊本に両親と弟がいます」

勇輝「ご両親は悲しむよ。そういうことは考えたの?」

玲奈「両親はあたしには興味ないんです。地元で高校の教師をして欲しかったみたいなのですけどあたしが反対を押し切って東京に来てしまったから。東京で教師になりたかったんですけど採用試験は全部落ちてしまったので塾講師のバイトをしていたんです。塾講師のバイトをしていることを話したら両親は勝手にしろって言ったきり連絡もくれません」

権三「え~そんなギャル系で先生かよ?」

玲奈「ちゃんと資格も持ってます!」

権三「そりゃ失礼、はい、それじゃ次はかおりんちゃん」


香里「私は大学生なんですけど今年の1月から休学しています。とにかく自分でもはっきりわかるんですが落ち込みやすいというか凹む性格なんです。病院では「うつ」だと診断されました。何かあると、と言うか無くてもなんですけど、つい「どうしよう」って考えてしまって頭がボーっとなって、何時間も身体が止まってしまったりしちゃうんです。そして意識がなくなってしまって、気がつくとバスルームでリストカットしているんです。浴槽の水に自分の血が流れていくのを見て我に返って死んでないことを残念に思いながら自分で止血してるんです。意識の無いまま死ねたらいいんですけどね。私はこの世にいない方がいいんです、そっと誰にも知れずに死にたいんです」


権三「リストカット?痛そうだなー」

玲奈「うつ病が原因なんだったら、ちゃんと治療して治せば死にたいって気持ちも無くなるんじゃない?」

かおりん「うつ病って診断される前から、そう子供の頃からずっとこんな感じなんです。だからあたしはどうやっても同じだと思うんです」

権三「何か生き甲斐とか趣味とかはないの?」

香里「ありません」


権三「うーん、そうか。さて、みなさん、四人ともそれぞれが違った事情があって死にたいという事のようですね。このまま少し話を続けましょうか」


勇輝「そもそも自殺願望サイトから集まったんだし、全員自殺願望者なんですからどうやって自殺するか、楽になるかお互い相談できたらいいかと思いますけど」

玲奈「全員で集団自殺しちゃえばすべてはおしまい、ですよね?」

権三「集団自殺ね、ちょっとハデだね。新聞一面のトップニュースになるね」

香里「私はそうやって目立つのはいやなんです。誰にも知られずに死にたい」

勇輝「私は死んでしまえば方法はどうでも良いんです。ただあまりみっともない死に方はしたくない。天国で待っている母が悲しむので」

玲奈「私はどうせなら新聞のトップニュースになるような死に方をしたいんです!」

権三「やっぱ、みんな自殺したい理由が違うから死に方も望みが違うな」


玲奈「みんな、本当に自殺したいと思ってます?本当に死にたいなら余計なこと考えずにみんなでさっさと死んじゃえばいいと思うんだけど」

勇輝「本当にこの四人で一緒に自殺する?女性達はそれでいい?変なおっさんと一緒に死ぬなんて事で?」

権三「ヘンなおっさんで悪かったね」


香里「すみません・・・あたしはやっぱり自分ひとりで死にます。そっとこの世から消えた方がいいんです。今日はこれで帰ります」

権三「かおりんちゃん、せっかくこの三人が君の理解者になったんだよ。このままさよならして死んでいっても天国で楽しくないような気がするな」

玲奈「じゃあたしも帰ります。集団自殺できるかなって思ったけど無理みたいだし。やっぱりゴンさんの言う通りみんな望みが違うんですよね」


権三「せっかく仲良くなったんじゃないか。そうだ、そうだ!みんなしばらく俺のマンションに来て見ないか?そのまましばらく共同生活をしてもいいし。俺一人だし、部屋は片付ければ4つあるし。もっと親しくなって話し合ってみようよ。このままそれぞれ別々に自殺していくのも寂しいじゃん。」

勇輝「え、いいんですか?僕は助かります。今の部屋の家賃も高くてもう払っていけそうもないし」

権三「それじゃ、そうしなよ。来週の土曜日までには部屋をバッチリ掃除して一緒に住めるようにしておくからさ、だから土曜日に荷物持って来てよね」

玲奈「かおりん。どうする?」

香里「今はそんな気になれません。気疲れして生きていくのもイヤだし。一人でアパートで空気みたいに生きて、そっと死んでいく方があたしらしい気がします」

玲奈「そうよね、やっぱり私も帰ります」

勇輝「それじゃ、ゴンさん、今日のところはそういうことで。またサイトで会いましょう」

権三「みんな帰っちゃうの?それじゃ、みんな待ってるからね!」



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