おまけ
「わぁ。大きな花びら」
誰も知らないであろう、森の中で見つけた桜並木を二人で歩いていると、一つだけ周りよりも大きく咲いている桜の花を見つける。
近づいて眺めていると、柔らかな風が枝を揺らし、小さな花びらが舞い落ちる。そのうちの一つが大きな花の上に乗り、次の風に誘われてまた舞い落ちる。
一年前、俺はもっと大きな花の下でファーストキスをした。
人差しそっと指を唇に当てると、あの時の感触が蘇ってくる。思い出すだけで幸せな気持ちになれる、人生で一度しかない、甘い口づけ。
「どうしました?」
「ん? ああ……」
「ほら、呆けてないで行きましょう。……あなた」
少し恥ずかしそうに言って、腕を組み、嬉しそうに俺の腕に頭をつける。そのお腹は随分と大きくなった。もうすぐ新しい命が産声を上げるだろう。
そのことに不安を感じる毎日。果たして三十路童貞だった俺に、父親が務まるのだろうか。こんな情けない俺が、生まれてくる我が子に、何かを教えてあげられるのだろうか。
「……いや、違うな」
「?」
俺の独り言に妻が首を傾げる。俺は「ごめん独り言」と言って笑う。すると妻も笑ってくれる。
柔らかい日差しの中、ようやく出会った本当に愛せる女性と、生まれてくる子供と共に、俺はゆっくりと歩み続ける。
悠久の時が終わる、その時まで。
童貞のまま三十路を迎えたら、魔法使いの国で勇者になりました。 ぷりっつまん。 @pretzman
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