第3話 パパとママが聞いていた

ある日、いつものように『いすお』とおしゃべりしていると突然ドアをたたく

音がしました。


トントン・・・


「亮介、お友達が来ているの?」


同時にドアが開きましたが亮介は一人で『いすお』に座ったままでした。


「あら、誰かと話している声が聞こえたんだけど、お友達じゃないの?」

「う、ううん、僕一人だよ、学校で本読みの授業があるから練習していた

 だけだよ」

「そうなの、じゃぁ頑張ってね」


ママはちょっと不思議そうな顔をして出て行きました。


「ふぅ、危ない危ない」

「『いすお』、もっと小さい声で話さないとダメだよ」

「亮介の声が大きいんじゃないか!」

「しー!大きいよ、声!」

「ゴメンゴメン」


リビングに戻ったママがとても不思議そうな顔をしているので新聞を読んでいた

パパは新聞をたたんでママに聞きました。


「ママ、どうしたんだい?亮介がどうかしたの?」

「それがね、パパ、亮介が部屋で誰かと話をしているみたいなの。最近毎日

 小さな声が聞こえるのよ」

「学校の演劇か何かの連絡でもしているんじゃないか」

「そうね、でもそんなの聞いたことがないわ、本人は本読みの練習って言ってる

 けど他の人とお話ししているように聞こえるのよ」

「それじゃそっと聞いてみるか」


パパとママはそっと亮介の部屋に向かい、ドアの前で耳を澄ませました。


「ねぇ『いすお』、大人になると楽しいことばかっかりあるんでしょ?」

「そう、確かに楽しいこともあるけど辛い時もたくさんあるんだよ」

「そうなの?お金を出せば遊園地だってどこにだって行けるんでしょ」

「そうなんだけどね、お金をもらうためには一生懸命働かないといけないんだ。

 パパも毎日お仕事に行くだろう。ママや亮介が楽しく幸せに暮らせるように

 頑張って働いてお金をもらってくるんだよ」

「そっか、お金はパパが働いてるからもらえるんだね」


ドアの外で聞いていたパパとママは驚いて顔を見合わせました。


「誰かとしゃべっている!入ってみよう」

「亮介、入るよ」


さっとドアを開けた二人の目の前には亮介が一人で椅子に座っているだけだした。


「あれ、亮介、今誰かと話をしていただろう?」

「ううん、パパ、僕は一人だったよ」

「今、パパとママはドアの外で聞いていたんだよ。パパが働いているって話を

 していただろう。誰と話していただんだい?一体どうやって・・・」

「本当はね、パパ・・・」


言いかけた亮介に『いすお』が思わず声を出した


「ダメだよ、亮介!」


「えっ」


パパとママはあたりを探してうろうろし始めました。


「誰の声?今の」

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