第5話 氷の騎士

火星政府が発足された際に治安維持の為に軍も組織された。

火星移住して来た者達の中には偏った思想の持ち主も少なからずいたからだ。

そういった者を裁く、更には政府の官僚達の護衛の意味もあった。


そんな軍も地球から寄せ集められたような者達が大多数だった。

つまりは、初めから腐敗していたのだ。

年功序列、頭の固い年寄り達が自分達の安寧だけを求める。若い将校達は皆逆らえずにじっと耐えて不満ばかりが募っていた。

そんな彼等の中に一人突出した青年がいた。

彼の名は、ジーク・セイラン

蒼い髪をした青年だった。

彼は軍の内部でも珍しく上層部の指示に忠実に従い功績を認められて若くして特務大佐の地位にいた。

しかし、彼は自らの地位に傲らず部下を思い常に先頭に立ち指揮をした。

当然快く思わない輩もいたが、彼には誰も手が出せなかった。

何故なら彼は火星の軍の中でも最強の剣技を身に付けていたからだ。

長い鞘に収められた日本刀、そこから繰り出される技は必ず相手の命を奪ってきた。

だから、彼は滅多には抜刀しなかった。

そんな彼にある日任務が与えられた。

軍大会議室

『特務大佐、君には明日から新しい任務にあたって貰いたい。』

嗄れた声で上層部の幹部が言った。

『最近、反地球連合の動きが活発化してきているのは君も知っているとは思うが…』

ジークは黙って頷いた。

『先日、遂に軍の幹部が一人暗殺された。手口から見て間違いなく奴等だ。心臓を綺麗にえぐる、あんな事が出来る奴は私は一人しか知らない。』

ジークは答えた。

『反地球連合、総統、霧の死神ですね。』


『そうだ。あの男女の仕業だ!ふざけおって!だから私は暗殺者など軍に率いれるのは反対していたのだ!地球の連中は何も分かっていない!』

幹部の男が声を荒げて言った。

『ジーク、奴等だ!目障りな奴等を排除しろ!それが叶った暁にはお前も幹部に加えてやる。丁度椅子が一つ空いたからな。』

男は笑みを浮かべた。

ジークは答えた。

『わかりました。ご命令とあれば必ずや霧の死神の首をお持ちしましょう。久しぶりに自分の剣を抜くに値する敵ですからね。』

幹部は高笑いしながらジークに近づき肩を叩き再び言った。

『これが終わればお前も楽になる。期待しているぞ?』

幹部はそのまま部屋を出ていった。


ジークは部屋に取り残されたまま唯、静かに呟いた。

『遂にこの日が来たか。』

ジークもまた静かに笑みを浮かべた。

彼はいつもなら何を思っても顔には出さなかった。例え仲間が殺されようと、顔色一つ変えずにその相手の首を一閃で吹き飛ばしてきた。

回りの者達はいつしか彼をこう呼ぶようになった。


冷徹なる氷の騎士と。


そう、ここにまた一つ大きな運命の歯車が動き出そうとしていたのだった。


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